金井さんは平日2日と土曜日に大学院へ通った。

「授業は講義というよりも、ケーススタディなどテーマに対しての議論が中心でした。いろいろな業界の人と、議論を交わすのは楽しかったですね。時間に限りがあるので、仕事とレポートが重なって忙しくなると睡眠時間を削りました」

 上司には大学院に通うことの理解を得られていたものの、仕事のパフォーマンスは落ち評価が下がったという。

「ルーティンワークはこなしていたのですが、自分から提案したり、課題を見つけて行動を起こすことができなかった。大学院へ通いながら昇進する同級生もいたので、焦りも感じました。ただ体力的に限界だったので、仕方ないと割り切りました」

 修士論文はキャリアを生かし、越境学習についてまとめた。大学院で学んだことで仕事のスキルアップはもちろん、人脈が広がり講師を依頼されたり、予備校で指導を頼まれるなど副業にも手を広げられるようになったという。現在は社会保険労務士の資格をめざし勉強中だ。

「事前の準備は大切ですが、考えすぎても足を踏み出せなくなります。思い切ってやってみると、なんとかなります」(金井さん)

 一橋大学大学院の経営管理研究科はビジネスパーソンが通いやすいように、神田一ツ橋にある千代田キャンパスで授業を行っている。受講生は30代半ばを中心とする幅広い年齢層のビジネスパーソンだという。同科で教鞭を執る加藤俊彦教授は言う。

「知識は必要ですが、たくさん物事を知っていればいいという単純なものではありません。理論を元に、それを応用してさまざまな現象を考察したり、戦略を立案できる能力を養います」

 授業は平日の夜が中心で、週に3日以上通う必要がある。平日の授業は、18時20分から休憩を挟んで22時まで2時限開講している。

「仕事をしながら大学院に通うのは相当にハードで、時間も学費もかかります。それだけに漫然と通うのではなく、目的を持って学んでほしい。2年間学び終えたとき、明らかに経営に対する理解、物の見方が深まります。それこそが、大学院に通う意義だと思います」

(文/柿崎明子)

※AERAムック「大学院・通信制大学2021」から