旅行作家の下川裕治氏(しもかわ・ゆうじ)
旅行作家の下川裕治氏(しもかわ・ゆうじ)
バンコクの女性たちはこんな感じで街を歩いています(撮影・山内茂一)
バンコクの女性たちはこんな感じで街を歩いています(撮影・山内茂一)

「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第29回は、タイのバンコクにおける暑いときのマスクの扱い方を紹介する。

【写真】タイで流行中の「ひも」とは?現地の女性のコーディネート例はこちら

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 暑くなってきた。マスクがつらくなってきた。炎天下を歩いていると、口の周りが熱を帯びてくることがわかる。ときに息苦しい。しかし新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。マスクは必需品である。

 冷感素材を使ったマスクなど、涼しいマスクも次々に売り出されている。熱中症対策も怠れない。三密状態ではない屋外では、マスクをはずす。しかし店に入るときや電車に乗るときは、しっかりとつけなくてはならない。マスクをしていないと、周囲からの視線が厳しくなることがわかる。

 おそらく世界の多くの人々が、同じような状況に追い込まれている。

 今年の3月。まだ往来が自由だったころ、タイのバンコクにいた。すでに気温は連日30度を超えていた。新型コロナウイルスの感染はバンコクでも広がっていたから、皆、マスクをつけていた。しかし暑い。屋外では、片方の耳にマスクのひもをひっかけて歩いている男性をよく見かけた。僕も倣ったが、落ちてしまいそうで落ち着かない。かばんに入れると、さっととり出すことができない。ハンカチのようにポケットに入れることになるが、湿ったマスクを入れるときは抵抗感がある。

 バンコク在住の知人たちに訊いてみた。

「ひもですよ」

 皆、口をそろえた。路上に店を出すマスク露店が1本10バーツ、35円ほどでマスク用のひもを売っている。使い方は、眼鏡につけるひものように使う。ひもの先にマスクをつけ、屋外を歩いているときは首からつるす。店に入ったり、電車に乗ったりするときはそのままマスクをつけるわけだ。

 女性の間では、このひもがファッション化の道を進みはじめているという。マスクとの色のコーディネートや洋服との色合いで、20~30本のひもをもっている女性も少なくない。デザイン性の高いひもは1本50バーツ、約175円もするとか。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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