17年夏にPL学園・清原和博を上回る大会新の6本塁打を記録した広陵の中村奨成(現広島)も、地方大会では通算17打数3安打4打点の打率1割7分6厘と、意外な成績だった。

 初戦(2回戦)の崇徳戦で右手首に死球を受けるアクシデント。これが送球や打撃に深刻な影響を与え、3、4回戦では打順も9番に下がり、試合途中に捕手からファーストに回るなど、攻守両面で精彩を欠いた。

 だが、「今の自分がこのまま出場していいのか?」と悩んでいるときに、控え部員から「お前がおらな勝てん」と励まされ、気持ちが楽になった。

 3番に戻った準決勝の広島商戦、中村は0対0の6回に値千金の左越えソロを放ち、1対0の勝利。決勝の広島新庄戦でも4回に先制ソロを放ち、直後1イニング6得点の猛攻を呼び込むなど、大事な場面で主砲復活を遂げた。

 そんな試練を経て、「控えがいてこその出場メンバー」とチームワークの大切さを痛感した中村は、甲子園で6本塁打、17打点、43塁打の大会新、さらに19安打、6二塁打の大会タイ、6割7分9厘のハイアベレージと記録づくめの豪打で、“夏の主役”に躍り出た。

 08年夏の甲子園で打率5割2分6厘、14打点、3本塁打と打ちまくった横浜2年時の筒香嘉智(現レイズ)も、南神奈川大会では極度の打撃不振から18打数3安打4打点の打率1割6分7厘。甲子園に出るほどのチームは、主砲が不振でも、他の選手が十分穴埋めできるだけの総合力を有していることがよくわかる。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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