「生活習慣改善の効果を甘く見てしまう人は、かえって薬の投与でやる気が高まり、食事・運動療法もうまくいくケースがあります。反対に、重度の肥満の人が、減量で検査値が改善できることがわかると、より積極的に生活習慣改善に取り組んでくれるため、薬の投与は先延ばしにします」
弘世医師はさらに、近年の薬物療法について次のように指摘する。
「まず求められるのは、血糖値をコントロールしてきちんと下げ、できれば減量もできることです。近年ではそれに加え『低血糖を起こさない』ことも重視されるようになってきました」
経口薬が効きすぎ、必要以上に血糖値が下がってしまうと、場合によっては意識障害などを起こすことがある。
糖尿病治療で最も注意が必要な副作用だが、こうした低血糖を起こしにくい薬剤としては、前述したDPP-4阻害薬を筆頭に、SGLT2阻害薬、メトホルミンなどがある。
しかし通常、糖尿病の治療薬、とくにインスリン分泌を促すタイプの薬を使っていれば、誰でも低血糖を起こすリスクを抱えていることになる。弘世医師は次のように呼び掛けている。
「低血糖を起こさないためにどうすればいいか、また低血糖を起こしてしまったときにはどうしたらよいのかを、医師とよく話しておくことが大切です」
(文・近藤昭彦)
≪取材協力≫
東邦大学医療センター 大森病院 糖尿病・代謝・内分泌センター教授 弘世貴久医師
順天堂大学順天堂医院 糖尿病・内分泌内科科長 綿田裕孝医師
※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より