その鎖鎌やノコギリを使用して相手を出血をさせるための攻撃には、場内中から悲鳴が上がった。とくに鎖鎌の使用頻度は高く、当初はホームセンターで売っているようなものだったのが次第にグレードアップ。柄部分にチェーンを装着した改良型も登場。しまいにはチェーンに数々の刀剣をぶら下げた『ヤマタノオロチ』と呼ばれるものまで登場した。

「凶器じゃねえ、武器と呼べ」

 武器の開発に余念がなく、製造する秘密基地『ムジナの穴』の存在まで公表していた。

 ポーゴは17年、腰の手術中に不整脈による脳梗塞で66歳で亡くなった。当時もイレギュラーながら試合もおこなっており、現役選手として生涯を閉じた。

 ヒールという役割を守り通したポーゴは、リング外でも悪役であることを忘れない男だった。

 生前、都内某所でポーゴを見かけたというファンによると、ポーゴはトークイベントの最寄り駅から会場まで、武器の入ったバッグを持ち、外にはみ出したチェーンを引きずるように歩いていたとのこと。すると警察官に呼び止められ職務質問をされていたという。すぐに解放されたそうだが、試合と関係ない路上においても『極悪大王』ミスター・ポーゴを貫いていた。ちなみに、警察官はポーゴを知っていたようで、それが早期の解放に繋がったようだ。

 プロレスとは究極のエンターテインメント。鍛え抜かれた肉体のぶつかり合いは、まさに『キング・オブ・スポーツ』だ。

 ポーゴらがおこなう凶器使用などのデスマッチ路線は、それらの真逆にある。しかし常人が決して真似することのできないエンタメという部分では、優劣つけられない同じプロレスだ。

 何かと世知辛い世間、非日常を感じさせる存在は貴重だ。ポーゴに匹敵するような極悪レスラーをまた見たいものである。様々なカタチのプロレスが存在した方が楽しい。(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫/1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍、ホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!公式ページ、facebook(Ballpark Time)に取材日記を不定期更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。