そして與那覇さんはこうも話した。

「1,2年生は土をもらえていませんでした。『まだ来年以降にチャンスがあるのだから、自分たちで取りに行け』ということでしょう」

 與那覇さんが言うように、3年生以外が甲子園で土を拾うことを禁じたり、拾いづらい雰囲気があるという学校は多い。下級生が土を拾うということは、「もう一度甲子園に来るつもりがない」と捉えられてしまうからだ。

 しかし、甲子園に出場することが容易ではないことは言うまでもない。地方予選は一発勝負のトーナメントであり、甲子園常連校であっても、翌年に再び甲子園に出場できる保証などないのである。

 そのため、土を拾うチャンスを逃すまいと、涙ぐましい努力をする人もいる。柏陵(千葉県)の二塁手として1999年夏の甲子園の舞台に2年生で立った三上宏太さん(37)は、「仲の良い先輩に、あらかじめ土を多めに拾ってもらうように根回しをしました」と打ち明けてくれた。

「やっぱり、もらえるときにもらっておきたいというのが正直なところでした。しかし、当時の監督はとにかく厳しい人で、土を拾えば『お前、来年にリベンジする気がないのか』と言われることがわかっていた。そのため前もって先輩に『多めに土を拾っておいてください』とお願いしました。ベンチ入りしていた他の2年生は自分で土を拾っていたのですが、予想通り監督にひどく怒られていましたね(笑)」

 大会後、夏休みが明けてから、三上さんは先輩から土を譲り受けた。その土はいまも実家で保管しているという。

 また3年生であっても、少しでも多くの土を持ち帰ろうと工夫(?)をこなす人もいた。2005年の夏、前橋商(群馬県)の一塁手として甲子園に出場した森田裕貴さん(33)はこう話す。

「試合の前日、監督が『負けたときは、みんなのために多めに土を取ってくれ』と話していました。部員は100人ほどいたので、ベンチ入りできない3年生がたくさんいたのです。しかし、試合に敗れたあとの時間だけでは、土を多くは拾えない。一方で決められた時間外に土を拾うと、グラウンドの管理員に注意されてしまいます。そのためか、大会前に甲子園で練習できる『公開練習』のとき、必要のないところでヘッドスライディングをして、ベルトに挟まった土をこっそり持ち帰っている選手もいました(笑)」

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土を海に廃棄されてしまうことも…