全車座席指定の特急形電車もラッシュ時は通勤ライナーの役割が与えられており、東武鉄道は「スカイツリーライナー」「アーバンパークライナー」、京成電鉄は「モーニングライナー」「イブニングライナー」、小田急電鉄は「モーニングウェイ」「ホームウェイ」と通勤ライナー用の列車名で運行され、西武鉄道では通勤時間帯にも「むさし」が設定されている。

 関東地方は「埼玉都民」「神奈川都民」などという言葉があるほど、他県から東京へ通勤する人も多い。ほかの地方に比べても人口が突出していることから、着席需要も高いのだ。そのニーズに応えることで、“住みやすい沿線”をアピールし、少子高齢化に伴う沿線人口減少の阻止、収益の確保を図っていることであろう。

 関東地方以外では、長野県のしなの鉄道が発足以来初の新型車両SR1系(JR東日本E129系ベースの車両)を導入し、2020年7月4日にデビュー。エクステリアデザインが青基調の車両は簡易優等車両に該当し、有料快速に充当される(一般列車専用は赤基調)。

■有料座席サービスに乗り出した京阪電気鉄道のプレミアムカー

 関西では一部の私鉄が特急料金を不要としているほか、転換クロスシートを装備した専用車両で運行するところもある。

 京阪電気鉄道の特急は長らく運賃のみで乗車できるサービスをしていたが、乗客から有料座席導入などの要望が出されたほか、インバウンドの増加もあり、有料座席プレミアムカーの導入を決定。8000系の6号車を改造し、2017年8月20日より営業運転を開始した。贅を尽くした座席やインテリア、アテンダントによる“お・も・て・な・し”のサービスが乗客の心をつかんだ。

 これに伴い、3000系(2代目)にもプレミアムカーの連結が決まり、2021年1月の予定で営業運転を開始する予定だ。これにより、日中の特急は全列車がプレミアムカー付きとなる。

 プレミアムカーの成功に刺激を受けたのか、JR西日本も2019年3月16日から新快速2往復の9号車にて有料座席Aシートの連結を開始。自由席制をとり、着席後、専任の車掌が乗車整理券を発売する仕組みだ。ラッシュ時は満席の区間もあり、好評を得ている。今後は“増発”が求められよう。

 編成中の一部に有料座席車を設ける手法は、JR東日本の普通列車用グリーン車(自由席制)が代表格だ。国鉄分割民営化当初は、東海道本線(おもに東京~熱海間)、横須賀線~総武快速線列車のみ継続され、現在は湘南新宿ライン、上野東京ライン、東北本線、高崎線、常磐線(E531系列車のみ)にも広がり、近い将来は中央快速線にも連結される。車両も平屋から2階建てに変わり、座席数を大幅に増やした。

 関西私鉄の特急で有料制をとる近畿日本鉄道は、ラッシュ時に大阪難波~近鉄奈良間の特急を運行。同区間の特急料金は520円(車両によって異なる場合あり)で、列車によっては看板車両の「ビスタカー」「アーバンライナー」「ひのとり」で運転され、“もっとリッチな通勤”を味わえる。

 近年の“通勤着席サービス”に対する思想は、全てではないが関東は効率重視、関西は合理的重視というのが浮き彫りとなっている。共通しているのは、“お手ごろな料金”に設定することで、利用しやすい環境を整えていることであろう。(文・岸田法眼)

岸田法眼(きしだ・ほうがん)/『Yahoo! セカンドライフ』(ヤフー刊)の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、フリーのレイルウェイ・ライターとして、『鉄道まるわかり』シリーズ(天夢人刊)、『論座』(朝日新聞社刊)、『bizSPA! フレッシュ』(扶桑社刊)などに執筆。著書に『波瀾万丈の車両』(アルファベータブックス刊)。