古代中国では子どもの水難事故が頻発した?(イラスト/もりいくすお)
古代中国では子どもの水難事故が頻発した?(イラスト/もりいくすお)

 漢字には、現在の意味からは想像できないような意外な成り立ちのものが数多くあります。そこで、漢字研究の大家であった白川静博士の「白川文字学」に基づいて、古代文字と比較しながら成り立ちを見ていきましょう。

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~水中に沈んだ子どもを助け出す

 元の字は「浮」です。右側の「孚(ふ)」は「子」の上に「手(爪)」を置いた形で、人を手で捕らえることを表します。「俘(ふ/とりこ、いけどり)」の元の形です。「さんずい」と合わせた「浮」は、水中に沈んでいる子を取り上げて救い出そうとしている様子です。子が水の中から出てくるので、「うく」などの意味になりました。


~水に流されている幼児の姿を表す

「流」の文字の右側は「とつ」と読まれ、頭髪の乱れた子が逆さになっている形です。「水」の変形である「さんずい」と合わせて、幼児が水に流されている様子を表し、「ながれる」などの意味になりました。古代中国では、洪水などで人の死体が流されることが多かったほか、生まれた子を水に浮かべて養うかどうか決める風習があったといいます。


 「卯(りゅう)」と「田」を組み合わせた字です。「卯」の元の形は流れる水のそばに水たまりができていることを表します。したがって「田」と合わせた「留」は、田地に水がたまることを表し、「たまる、とどまる」の意味になりました。


 古代文字は、水の中に牛や羊がいる形です。古代中国では川が氾濫したときなどに、犠牲(いけにえ)として牛や羊を川に沈めて祀り、氾濫を抑えようとする儀式があったといいます。そこから「沈」は、「しずめる、おちつく」などの意味になりました。


 元の字は「搖」です。元の文字の右側だけの文字の読み方も「よう」で、肉を表す「(月)」と、胴が太く口の小さい土器を表す「缶(ほとぎ)」の組み合わせです。「缶」の上に置いた「肉」が器からはみ出た不安定な様子を表します。不安定なので「ゆれる」などの意味になりました。

※漢字エンタメ誌『みんなの漢字7月号』から抜粋
監修/久保裕之(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所)