その他にも打撃系凶器は、キリがないほど存在する。

 一斗缶がトレードマークといえば、アジャ・コング。パワー溢れる戦いで数々の名勝負を作り上げてきた女子プロレス界のレジェンドは、要所で一斗缶攻撃をおこなう。この一斗缶は入場時から持っており、アジャの顔が施されている。

 ちなみに顔が似ていることから、プロ野球ソフトバンクのウラディミール・バレンティンの“義姉”というキャラも定着。13年に当時ヤクルトのバレンティンが本塁打NPB記録を達成した際には、一斗缶を掲げて祝福した。

 本部席や実況放送席などの備品が凶器として使用されることもある。

 ゴングに頭を打ちつけられ、流血に追い込まれた選手は多い。そしてゴングを打ち鳴らす木槌は簡単に奪い取られ、凶器に使用されてしまう。小槌をリングコスチュームに隠したまま試合を続ける選手もいる。

 また実況用マイクのスイッチを入れたまま相手を殴り、音を拾わせるテクニックを使う選手までいるほど。

 リングサイドには数多くの効果的凶器が「ご使用ください」という状況で置いてあるのだ。

 凶器攻撃は勝敗のみならず、その後に続く物語の行方を左右することもある。

 忘れられないのは94年5月5日、川崎球場での大仁田厚vs天龍源一郎戦までの流れだ。

 同年3月2日WAR両国国技館、天龍、阿修羅原vs大仁田、ターザン後藤戦がおこなわれた。場外で後藤からイスで殴打され脳震盪のような状態の天龍から、大仁田がピンフォール勝ちを奪った。

 その後、対戦要求を受けた天龍がノーロープ有刺鉄線金網電流爆破デスマッチに挑んだ。歴史的ビッグマッチはイスでの一撃がきっかけだった。

 デスマッチ団体も増え、アイディアを絞った凶器も生まれる。新鮮で見ていて楽しいが、古くから使用されている凶器にはそれとは異なった味がある。そして上記のイスのように、ドラマを引き起こすだけの力も持っている。

 伝統的凶器は色あせず、プロレスに欠かせないツールであり立派なキャラだ。(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫/1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍、ホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!公式ページ、facebook(Ballpark Time)に取材日記を不定期更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。