正式に商品化が発表されると、Pearl製のドラムを使用しているモニターアーティストからもSNSで「これはいい」と称賛する声が続出。音楽ファンを中心にクチコミで商品が広まり、ヒットへとつながった。

 実際の商品に触れてみると、ヒットした理由がわかる。そもそもが楽器だけあってペダルの踏み心地がよく、安定性が感じられるのは当然のこと、軽くて持ち運びができることが一番のメリットだろう。足で踏む形の消毒液スタンドは他にもあるが、重い設置式がほとんどで固定の場所から動かせない。その点、この商品は脚部分を折りたたむことができて、どこでも移動できる。三脚部分が回転するので狭いスペースでも置き位置の調整が可能になっている。さらに、スタンド部分を180度回転させることもできるので、対面式で使用することもできる。これにより、コンサート会場などではスタッフがペダルを踏み、客が消毒を受けるという使い方も可能になる。

 プッシュ部分にあたるプレートも上下左右にスライドできるので、ペダルを思いっきり踏んでしまってもちょうどいい量の消毒液しかでないように設定できる。細かい部分に配慮が行きわたっているので、とても使い勝手がいいのだ。

 価格は1万5千円(税抜き)。これを安いとみるか、高いと思うかは人それぞれだろうが、元は楽器と考えると決して高くはない。

「そもそも、この商品開発は私たちの技術を使って社会貢献ができないかというところからスタートさせたものです。コロナでもうけようという姿勢とは正反対のコンセプトなので、会社としては収益的な事業とは考えていません。この製品がコロナ感染予防につながり、皆さまに一日でも早く心から音楽を楽しめる日が来ることを望んでいます」(大友さん)

 6月からの先行予約期間中は、病院やホテル、アミューズメント施設などさまざまな業界から問い合わせがあったという。7月13日から全国一斉発売がスタートしているが、すべて楽器店を通しての販売に限定している。

「私たちは楽器メーカーですから、やはり楽器店の支援を通して、音楽業界ひいては日本社会を元気にしていきたいと思っています」(大友さん)

 いまだ先行きが見えない音楽業界だが、コロナ禍で楽器メーカーが起こした“イノベーション”が、一筋の希望となったことは間違いないだろう。(取材・文=AERAdot.編集部・作田裕史)