■水戸岡デザイン車両がついに北海道へ

 水戸岡氏がJR九州以外の鉄道車両を初めて手掛けたのは、出身地である岡山県の両備グループ。交通や物流など、グループ企業50社を有する。

 まず、2002年に岡山電気軌道9200形が登場。座席を天然木のベンチタイプとしたほか、フローリングの床、竹製のロール式すだれを採り入れた。2019年には、路面電車初のジョイフルトレイン「おかでんチャギントン電車」(9200形1081号車)が登場。度肝を抜く外観、テーマパークのような雰囲気を創出したインテリアがウリである。

 もうひとつのグループ企業、和歌山電鐵は2006年4月1日に南海電気鉄道貴志川線を引き継いだもので、6編成ある2270系電車のうち4編成が水戸岡氏のデザインでリニューアルされ、「いちご電車」「おもちゃ電車」「たま電車」「梅星電車」の順に生まれ変わった。

 水戸岡デザインの車両は九州だけではなく、長良川鉄道や富士急行、しなの鉄道といった本州の鉄道事業者のほか、JR四国にも波及した。残る北海道は2020年夏、ついに実現する。

 それは伊豆急行2100系のジョイフルトレイン「THE ROYAL EXPRESS」が「THE ROYAL EXPRESS~HOKKAIDO CRUSE TRAIN~」と銘打ち、JR北海道の札幌~池田~知床斜里~旭川~札幌を3泊4日で周遊するもの。電化方式などの関係から自力走行が不可能なため、東急電鉄(伊豆急行は東急グループの企業)が購入した元JR東日本の電源車を介在し、水戸岡デザインにお色直ししたJR北海道のディーゼル機関車が牽引する。

 水戸岡氏は1947年生まれで、古希を過ぎても引く手あまたの大活躍ぶり。私事で恐縮ながら、報道公開の席で握手する機会があり、その手は温かく厚かった。人柄によって、堅物の心を動かし、“「鉄壁」という名の概念”を根底から覆したのだ。そうでなければ、数多くの素晴らしい車両が1つも生まれてこない。(文・岸田法眼)

岸田法眼(きしだ・ほうがん)/『Yahoo! セカンドライフ』(ヤフー刊)の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、フリーのレイルウェイ・ライターとして、『鉄道まるわかり』シリーズ(天夢人刊)、『論座』(朝日新聞社刊)、『bizSPA! フレッシュ』(扶桑社刊)などに執筆。著書に『波瀾万丈の車両』(アルファベータブックス刊)がある。また、好角家でもある。引き続き旅や鉄道などを中心に著作を続ける。