今まで、テレビやスマホばかり見せて育児をしていた自分は大変な間違いをしていたのかもしれない……。突然、「これからは変わりたい!」という気持ちが強く沸き上がり、夫に相談することなくその場で入会を決めた。月謝は1万5000円。専業主婦にとって決して安い金額ではなかったが、私の貯金から支払うことで夫の了承を得た。

 それからは、先生の言いつけ通り、自宅のテレビは一切つけず、代わりに新聞の購読を始めた。無音が辛いときはクラシック音楽を聴いて、心を落ち着かせた。

 しかし、それを心地よく楽しめたのは3日だけ。徐々に窮屈さを感じるようになり、イライラが募る。そのストレスは子どもではなく夫に向かった。夫婦げんかが絶えなくなったが、「これも子どものため」と思い、先生の言う通りの毎日を送り続けた。

 数カ月はテレビは見せず、車にもほとんど乗せず、わが子に“ダメージ”が出ないことだけを願いながら生活した。夜泣きに苦しんで誰にも相談できない生活に比べれば、先生の言いつけさえ守っていれば大丈夫だと、安心できたような気がしたからだ。今思うと、一種の“洗脳状態”だったような気がする。

 しかしある日、幼児教室でできたママ友と何げないおしゃべりをしていると、こんなことを言われた。

「ぶっちゃけ、子どもにテレビ見せてますよ~」

 え!? 私は驚いた。レッスンでは、ママ友たちはそんな様子を一切見せずに熱心に先生の話を聞いていた。もしかしたら出し抜こうとしているのでは……という疑念もあった。しかし、話を聞けば聞くほど、子ども番組の詳細な内容を話してくることなどから、うそはついていなさそうだった。疑問に思った私は、ではなぜ幼児教室に通っているのかを聞いた。すると、

「児童館代わりだよ。もう少し大きくなれば、いろんな習い事ができるからそれまでのつなぎね」

 あっさりとそう答えた彼女の表情を見たとき、私は幼児教育の“魔法”から覚めた。なーんだ、みんなそんな適当な感じなんだ。もっと力を抜いていいんだ。そう思うと、ちょっと気が楽になった気がした。

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