出産前には幼児教育に興味を持っていたことを思い出し、どんなものなのかのぞいてみたくなった。

 気分転換も兼ねて行ってみようかな。育児の参考になるアドバイスももらえるかもしれないし。そんな期待もあって、HPにある電話番号をタップした。

 待ちに待った無料体験レッスン当日。私は久しぶりにオシャレをして、都内にある幼児教室へ足を運んだ。

 そこには、すでに5組の母子がいた。わが子と同じくらいの生後半年も満たない赤ちゃんたち。私が知らない間に、他のママたちはこんな場所に集まっていたんだ。出遅れた……最初に浮かんだのは、そんな気持ちだった。

 まず始まったのは、あいさつの歌。先生とママたちが、赤ちゃんにほほ笑みかけながら元気よく歌う。赤ちゃんはみんなニコニコしてママに笑いかけている。

 あいさつの歌が終わると、次は親の「勉強タイム」が始まる。ここでのやりとりに、私は大きな衝撃を受けた。

「こちらの教室に通っているご家庭のほとんどが、テレビを見せない生活を送っています」

 先生が自信を持って言う。

「なぜテレビを見せないか。それは将来、子どもに障がいが出てしまう可能性が高くなるからです。情報は新聞で得ましょう!」

 それを真剣にメモするママたち。私もならってメモを取る。

「子どもを長時間車に乗せるのは大丈夫でしょうか?」

 先生に質問するママがいた。先生はその答えをこう断言した。

「10分が限界ですね。それ以上は脳にダメージを与えてしまう可能性があります」

 その日、私は車で30分かけて教室まで来た。これはわが子に悪影響を与えてしまってしまったのではないか……いたたまれない気持ちになった。

 勉強タイムが終わると、フラッシュカード(絵や記号のついたカードをテンポよく見せることで記憶力をつける教材)やあいさつの練習、ベビーヨガなども行われた。

 しかしまだ生後半年も満たない赤ちゃんばかりなので、ゴロゴロしているのが精いっぱい。そんな状態のわが子に対して、ママたちは一生懸命、あの手この手で反応を引き出そうとしている。

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激増した夫婦げんか