ところが、列車の外からだと、列車と一緒に前方に運ばれているように見えます。列車に乗っている人は上に向かってジャンプしているつもりなのですが、ジャンプしたときにはすでに車体の影響で前に向かって勢いがついていて、実際には斜め上方にジャンプしているのです。列車に乗っていない人から見ると、それがよくわかります。

 これが「初速度」の効果なのです。つまり、ジャンプした時の速度が上向きではなく、かなり前方に向かって勢いがついているにもかかわらず、その勢いに気づいてないので「列車だけが前に行くはずだ」と誤解が生じるのです。

 さて、この空気の影響と初速度を頭に入れて、質問にあるような手軽な海外旅行ができるかどうかを考えてみましょう。

 地球上の空気も地球の自転によって地面と一緒に回転しています。なので、ただ浮いているだけだと、先ほどの電車に乗った人と同じように、空気と一緒に運ばれてしまいます。つまり、地面から見て浮き上がった地点の上空に、半日たっても留まってしまうのです。

 でも、もし宇宙服を着て数万メートルの上空に浮いていられたら、そこまで行くと空気が薄いので回転していても、その影響はほとんどありません。しかし、空気が薄い分、浮き続けること自体がすごく難しい作業になってしまいます。なぜ浮き続けられないのかというと、たとえばヘリコプターを思い出してください。ヘリコプターは空気を下に押しやることで機体を浮かしているのですが、空気が薄い上空高くでは、その押しやる空気が少なくなるので浮きにくくなります。

 つぎに初速度の問題を考えます。じつは、地球上の地面は、地球の自転により西から東へ高速で移動しています。これは地域(緯度)によって異なり、日本付近の地面(球体である地球の表面)は、音速(音が空気中を伝わる速さで、時速約1200キロ)程度で移動しています。地面から本当に真上に高く浮き上がるためには、音速で移動している距離を差し引くために、斜めに音速で浮き上がらねばなりません。それは、ジェットエンジンで東から西に加速しないといけないほどの大作業になります。結局、ジェット機に乗って海外旅行に行くほどの手間がかかるのです。

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浮いたままの旅行は無理…でも他の手軽な海外旅行の可能性が?