「今は、どこを受診しても診断によってしかるべき処置を取ってもらえると思います」

 熟練した医師では、問診で症状を把握すれば、ほぼ診断がつくこともあるが、脳腫瘍や顎関節症、副鼻腔炎といった病気との鑑別診断のためにMRIを撮る。

「また、既往症として帯状疱疹(ほうしん)がある人は、帯状疱疹後三叉神経痛というウイルスが原因の三叉神経痛の場合があるため、その病気との鑑別も必要です」

 通常、三叉神経痛と診断がつけば、抗てんかん薬のカルバマゼピンという薬が第一選択として処方される。これで、多くの場合、症状が抑えられる。

 抗てんかん薬の使用は、痛みの情報が神経に伝わるのを抑えるためだ。

 カルバマゼピンで効果がでない場合には、ほかに数種類ある抗てんかん薬や抗うつ薬など、患者の病状や状況に応じて薬が選択される。

 ただし、薬物は全身に作用するため、眠気やめまい、ふらつきといった副作用が出ることがあり、その症状が強い場合には、薬物療法では限界がある。

「状況に応じて、患者さんと相談し、脳神経外科での手術を勧めることもあります。手術は根治的治療だからです。ただ、全身麻酔による開頭手術ですから、一定のリスクはありますし、高齢者や他の病気を持っている人の場合はできないこともあります。さらに、わずかながら、周囲の神経を傷つけての麻痺などが残る場合もあります」

 他には、ガンマナイフやサイバーナイフといった脳に放射線を照射する治療もある。この治療が奏効する確率は6~8割あるが、痛みが再発したり、顔面全体に痺れが出ることもある。

 薬物療法と手術の中間的アプローチとして要注目なのが、ペインクリニックでおこなう神経ブロック療法だ。

「神経ブロック療法は根治的治療ではありませんが、奏効すれば、薬を全部やめられる可能性があります。一回のブロック治療で、2年くらいは症状を抑えることができます。4~5年抑えられている人もいます」
 
 現在、安部医師らがおこなっている神経ブロック療法は、42度以下の高周波(ラジオ波)でおこなうパルス高周波法だ。

「パルス高周波は、知覚神経を破壊するのではなく、42度への過熱と電磁波の断続的なオンとオフの繰り返しによって、神経伝導に影響を与え、痛みをおさえるのです」

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神経ブロック治療は近年より精度の高い治療が可能に