定期的な検診を受けることで子宮頸がんの早期発見につながりますが、HPVの感染予防に効果的なのが、HPVワクチンです。すでにHPVワクチンの有効性と安全性について、多くの研究が発表され、HPVワクチンが子宮頸がんの前がん病変である高度異形成を抑制するという医学的コンセンサスは確立され、世界では高リスク型である9つの型のHPV感染を抑える9価のHPVワクチンが標準となっています。また、肛門がんや中咽頭がんなどHPVに関連したがんを予防するために、米国や英国、カナダ、ブラジルなどでは、女子だけでなく男子への接種をすでに推奨しています。

 一方、日本はというと、2013年4月から2価と4価のHPV ワクチンの定期接種が開始されたものの、2カ月後の6月には副反応の懸念から積極的勧奨は中止。2020年6月現在も、HPV ワクチンの積極的勧奨中止の状況は変わっていません。この間、日本のメディアがHPVワクチンの危険性を強調する報道に偏っていたことや、産婦人科医であっても自分の娘にはHPVワクチンを勧めていなかったことなどが、論文で報告されています。

 北海道大学大学院のシャロン氏らの研究グループは,日本でHPVワクチンの「積極的勧奨の中止」を行わなかった場合、子宮頸がんへの罹患を防ぐことができたと予想できる患者数と「積極的勧奨の中止」により失われた命についての具体的な数字を報告しました。報告によると、2013年から2019年の間の「積極的勧奨の中止」によって接種率が1%未満となっており、接種率が約70%に維持された場合と比較すると1994年から2007年の間に生まれた女性では一生涯のうちに24,600~27,300人がさらに罹患し、5,000~5,700人がさらに死亡すると推定され、積極的勧奨が再開されず1%未満の接種率が続くと、現在12歳の女性だけに限っても一生涯のうちに3,400人~3,800人が子宮頸がんとなり、700人~800人が死亡すると推定されると言います。

 一方、シャロン氏らは、直ちにHPVワクチンの積極的勧奨が開始され9価のHPVワクチンが承認され、12歳から20歳の女性の接種率を2020年中に50%~70%に回復できた場合、子宮頸がんでさらに死亡する数の80%の命を救うことができると推定されることも報告しています。

 9価のワクチンは、2015年の承認申請から5年の歳月を経た今年の5月20日、ようやく日本でも承認が了承されました。2020年6月現在も、HPV ワクチンの積極的勧奨中止のままではありますが、9価のワクチンの承認は大きな一歩と言えそうです。

 HPVワクチンの接種と定期的な子宮頸がん検診が、子宮頸がんを予防する上でとても大切です。一人の女性として、接種率と検診率の向上を切に願っています。

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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