西武監督時代の伊原春樹氏 (c)朝日新聞社
西武監督時代の伊原春樹氏 (c)朝日新聞社

 西武オリックスの監督を歴任した伊原春樹氏は、1980~90年代の西武黄金期に、三塁コーチとしてリーグ5連覇に貢献。87年の巨人との日本シリーズでは、2死一塁で秋山幸二の中前安打の直後、センター・クロマティの緩慢な返球を見越して、一塁走者の辻発彦を本塁に突っ込ませた“伝説の走塁”の仕掛け人として知られている。

 また、“鬼軍曹”と恐れられたスパルタ指導や歯に衣着せぬ“伊原節”、携帯電話不要論、激辛カレー好きなどなど、グラウンドの内外で話題を提供している。

 中でも、巨人ヘッドコーチ時代に楽天・野村克也監督と繰り広げた足掛け2年にわたる“ルンバ騒動”は、“伊原伝説”を語るうえで欠かせないエピソードである。

 2008年5月29日の楽天戦(東京ドーム)。2点を追う巨人は9回2死一塁から矢野謙次が盗塁失敗でゲームセット。守る側は、一発長打だけを気をつけて「打者勝負に専念」の場面だから、二盗を許しても大勢に影響はない。ファースト・リックも一塁ベースから離れて守っていた。

 ところが、そんな走者有利な状況にもかかわらず、矢野は二塁でタッチアウト。点差を考えれば、無理に走る必要はなかったのだが……。試合後、野村監督も「バッカじゃなかろかルンバ♪」と鼻歌を口ずさみ、「巨人は面白い野球をするね」と皮肉った。

 ちなみに「バッカじゃなかろかルンバ」とは、「昭和枯れすすき」のヒットで知られる演歌デュオ・さくらと一郎が06年に発売したシングル盤「平成枯れすすき」のカップリング曲である。

 この“ルンバ発言”に噛みついたのが、伊原コーチだった。「ウチの(原辰徳)監督を侮辱するな」と激怒し、野村監督を「選手が成功すれば自分の手柄にし、失敗すれば責任を他人へ押しつける。年寄りだから仕方がない。考えを正す、思い直すということをしないのだろう」と口撃。

 さらに4月11日のオリックス戦で、尿意を我慢できなくなった野村監督がトイレに立っている間にサヨナラ勝利が決まった珍事まで槍玉に挙げ、「(野村監督を)敬ってるけどさあ。小便ちびって決勝打を見なかったなんて、叩かれるだろ。年寄りだから許されるんだよ」とからかった。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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