だが、スポーツは厳しい世界だ。プロアマ問わず、「結果を出せなければ解任される」という指導者もいるだろう。勝つためには手段を選ばない「勝利至上主義」が、高校野球ではいまだに問題として残っている。強豪校の一部でいまだに続けられているという「サイン盗み」はその最たる例だろう。沢田さん自身、これまで「教育」と「勝ちにこだわること」の矛盾に苦しんできた。

「『勝利』を重視すると、人間性が軽んじられる場面がある。どんなスポーツでも、勝つためには相手の隙を突いた攻撃や、相手の嫌がる作戦を立てていかなければなりません。教育の現場では『人の嫌がることをしてはいけない』と指導しますが、勝つためには『相手の嫌がることをしなくてはいけない』のです」

 両者のバランスを見極めた指導が求められている。沢田さんは、まず選手に「勝つことの喜び」を覚えさせ、その後に人間性を育てる指導を意識している。ここで言う指導とは、体罰のような意思疎通のない一方的なものではなく、「選手に考えさせる」という指導だ。

「叱るだけでも、褒めるだけでも駄目。選手に考えさせ、選手から言葉を引き出し、納得してもらうことが大切です。体罰がいけないのはもちろんですが、叱ることと侮辱することもわけて考えないといけません」

 根性論的な指導で結果を出してきた人たちからは、「それでも体罰が必要な時もある」という声が聞こえてきそうだ。だが、沢田さんは古い考えのままではこれからの時代は生きられないと断言する。

「これからの競技指導者は、時代の要請に応じた指導のなかで結果を出し続けられる人に淘汰されていくでしょう」

 沢田さんの言葉は、多くの人に向けられている。

(AERAdot.編集部/井上啓太)