(イラスト/渡辺裕子)
(イラスト/渡辺裕子)

 歯周病は糖尿病、心筋梗塞、認知症など、全身の健康とも大きくかかわっていることが分かってきています。そのキーワードは歯周病による「慢性炎症」と考えられています。日本歯周病学会・日本臨床歯周病学会による公式本『続・日本人はこうして歯を失っていく』では、歯周病が全身の健康に悪影響に及ぼすメカニズムを解説しています。ここでは「心筋梗塞・脳梗塞」「誤嚥性肺炎」を抜粋して届けします。

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 心筋梗塞と脳梗塞は血管の病気の代表です。特に脳梗塞は命が助かっても、麻痺などの後遺症が残るケースが多く、中高年には要注意といえる病気です。

 1000人以上を対象におこなわれた研究で、重度の歯周病にかかっている人はそうでない人に比べ、脳梗塞や心筋梗塞などの循環器疾患の発生率が1.5~2.8倍も高いことが明らかになっています。

 こうした循環器疾患の引き金になるのが動脈硬化です。動脈硬化とは血管の内側にコレステロールなどが沈着して血管が狭く硬くなり、血液の流れが悪くなった状態をいいます。歯周病と動脈硬化の研究については、動脈硬化を起こした血管内壁から歯周病菌が見つかったという報告が最初です。これまで循環器疾患にかかりやすい原因として、食生活や運動不足、ストレス、喫煙などの生活習慣が挙げられてきましたが、この報告以来、別の要因として歯周病が注目されるようになったのです。

 その後の多くの研究で、動脈硬化の病変から悪玉三兄弟のP.g菌とT.d菌が高い頻度で見つかっており、特にP.g菌が病気と関連が深いと考えられています。

 また、こうした患者さんでは、血中の炎症性物質のIL‐6やTNF‐αなど「炎症性サイトカイン」の値が高いことが報告されています。同じく高感度CRP(循環器疾患のマーカーであり、炎症の指標となる)の数値が高いこととも関連すると考えられています。

 歯周病が循環器疾患を引き起こすメカニズムとしては、歯周病菌や歯肉の炎症によって産生される複数の炎症性物質が血管壁を刺激し、動脈硬化を誘導する物質を作り出すことが考えられます。その結果、血管内にアテロームプラーク(粥状の脂肪性沈着物)が発生し、血液の通り道は細くなって動脈硬化が発生するというわけです。

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誤嚥性肺炎の原因となる菌には歯周病菌も