これまで十数人に声をかけたが、いずれも巨人ファン。阪神ファンの姿が見えない。アウェイだから仕方ないのだろうが、それにしても見当たらない。球場を1周して、ようやく遠くからでも“虎党”だとわかる女性にめぐりあえた。チームカラーを模しているであろう黄色の着物姿に、マスクも黄色だ。「自作の着物で応援するのが定番スタイルなんです」と話すのは、会社員の福山多恵子さん(48)だ。

「私も何人か阪神ファンがいると思ったんだけど、雨だから足が鈍ってるのかね」と残念そうだが、「この壁の向こうにあの選手たちがいるのかと思うと、興奮するね。(阪神の)ボーアがすごく打つらしいから、早く生で見たい」と気持ちはすでに試合に向いていた。

 そして18時過ぎ。ついにプレイボールだ。巨人の先発・菅野智之が投じる1球目を見逃すまいと、ファンたちは一斉にタブレットやスマホに食いつく。152キロのストレートを阪神の糸井嘉男がファウルにすると、「おお」というどよめきが湧きおこった。

「ついに開幕したか」

 そんな喜びをかみしめていると、菅野は見事に三者凡退に切って取った。攻守交代の間、「菅野、開幕だから力んでるんじゃないの」「ちょっと球高いですよね」といった雑談があちこちで始まった。彼らは連れ同士ということではなく、先ほど会ったばかりの人たちだ。だが、試合が始まってしまえばそんなことは関係ないのである。記者も、「真っすぐは走ってると思いますよ」と便乗し、何気なくスマホをのぞかせてもらった。繰り返しにはなるが、ここは球場のスタンドではなく、通行人も行き交う路上である。そんなところで野球談議が始まるのも、コロナ禍でのスポーツ観戦ならではか。

 その後も、スマホとスコアボードを交互にみるというスタイルで観戦する。通信に数秒の時差があるため、スコアボードに先に結果が表示され、何が起きたのかは端末で確認する。そんなもどかしさを感じつつも、初めての体験に新鮮さも感じた。

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スポーツバーは満席