今年のブレーク芸人の筆頭であるエイトブリッジ(写真提供/ナチュラルエイト)
今年のブレーク芸人の筆頭であるエイトブリッジ(写真提供/ナチュラルエイト)

「こんなはずじゃなかった」

【写真】なぜか生き残っている芸人といえばこの人

 誰もがそう思っているはずだ。新型コロナウイルス感染症の流行によって、世界中の人々が仕事面や生活面で大打撃を受けている。そのショックの大きさは立場によって異なるものの、多かれ少なかれ何らかの影響を受けている人がほとんどだろう。

 日本で生活する芸人たちも例外ではない。一時はテレビの収録が減り、お笑いライブや営業のような人が集まるイベントもほとんど行われなくなった。テレビ中心の芸人もライブ中心の芸人も一様に大きなダメージを負っている。

 テレビでは出演者の人数が絞られ、リモート収録が一般的になった。スタジオに設置されたモニターの枠の中で、間合いのズレや空気の違いを気にしながらしゃべらなくてはいけないのは厳しい。

 だが、もっと苦しいのは、出演人数削減のあおりを受けて現場から弾かれてしまった芸人たちだ。スタジオ収録を盛り上げていた「にぎやかし役」のような芸人こそが、今は不要不急の存在として半ば干されるような状態に陥っている。

 そんな中で、一見すると調子が良さそうに見える芸人こそが、一番の被害者ではないかと思うことがある。今年に入ってから一気に仕事が増えて、今が書き入れ時だった人たちだ。

 本来なら、1年の折り返し地点にあたる今の時期は、そろそろ「今年のブレーク芸人は誰なのか」というのを考える時期だ。その候補に挙げられるような芸人は何組か存在しているし、そのうちの多くは、コロナ関連の騒動が起こる前にはそれなりにテレビに出ていた。

 だが、コロナ禍によって一時はそういった芸人の出番も少なくなり、いわゆる「ブレーク芸人」が通常よりもブレークできないという状況が続いている。いわば、飛行機が滑走路で加速して、離陸する直前になって、緊急事態が発生して離陸を中断されたような状況に置かれているのだ。

 もともとあったテレビやライブの仕事がなくなるのも、もちろん辛いだろう。しかし、いざこれからテレビの最前線に繰り出そうとしていたタイミングで足を引っ張られるというのも、精神的なダメージとしては計り知れないものがあるのではないか。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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