研究では、18万人を超える患者から、65万件の「不整脈発作の見られない心電図画像」を用いてAIを構築。その結果、医師の目には正常にしか見えない心電図であっても、心房細動の有無を突き止めることに成功した。つまり、人間には見ることのできない微細な変化やパターンが、AIには見えているというのだ。

「心房細動の診断・治療を根幹から変革する可能性を持つ研究です。それだけでなく、心電図には我々が気づかないだけで、さまざまな疾患に関する兆候が内包されている可能性も示唆しています」(同)

■開発に出遅れた日本 臨床活用に「高い壁」

 ほかの分野にも目を向けてみよう。創薬では、20年1月にExscientia(イギリス)と大日本住友製薬(日本)が、世界で初めて、AIを使って開発した化合物の臨床試験を開始した。また自然言語(人間が記述した言葉)を処理する分野においては、Babylon Health(イギリス)がAIとのチャットにより、鑑別診断や重症度予測などをおこなうサービスを提供している。

 目覚ましい発展の背景には国策による促進もある。アメリカは19年、AIの開発と規制緩和を促す大統領令「American AI Initiative」を発布。イギリスは17年の産業戦略白書で「AI・データ経済」を最重要産業の一つに指定。中国は17年に「次世代人工知能発展計画」で、「AI産業規模1兆元(約17兆円)をめざす」と打ち出した。一方、日本はどうか。

「現状は、医療AIを牽引する米・中と横並びとは言えません。スタートアップが国内で多数立ち上がる一方、医療機器として臨床に利用されるものは非常に限定的です。これは薬機法の高い壁が主因で、国外メーカーに参入を躊躇させる要因のひとつでもあります」(同)

 業界全体が途上にあるAI。「伸びしろ」はまだ残っている。

■画像解析 AIとのダブル診断でもう見逃さない時代へ

 世界1位の画像診断大国──そう、日本は対人口比のCT・MRI保有台数で世界1位を誇っている(日本放射線科専門医会・医会)。しかし、読影(画像診断)をする医師は足りておらず、医師1人当たりの読影件数も世界1位という実情だ。読影を支援するAIは今、急速に求められている。

次のページ
見落とした病変をAIが発見した例も