先輩医師も毛虫皮膚炎は瞬時に診断できていたはずです。

 それをあえて患者さんの心配を取り除くためにじっくりと、時間をかけて観察していたのです。

”患者さんは心配があって病院に来ている”

 若い頃の私は、短時間で正しい診断をつけ診察を終わらせ、他の患者さんの待ち時間を減らすことだけを考えていたような気がします。そこには患者さんの不安を取り除くことまでは全く気が回っていませんでした。

 自分の医師としての未熟さを感じる出来事でした。

 暑い季節のこの時期、皮膚科は虫さされやあせもで外来が混雑します。

 毛虫皮膚炎の患者さんは同じ日に何人も続くことがあり、診ている医者としてはついつい診察のスピードをあげてしまいがちです。

 忙しいときでもちょっと立ち止まって患者さんの不安に寄り添うことが大事だなあ、と改めて思います。

 若いうちは医者として信頼してもらえないことも多く、患者さんと信頼関係を築くには時間がかかりました。

 あの頃から時間がたって私も40代となり、診断や治療方針など患者さんが納得しやすくなってくれたように感じます。診察のスピードと患者さんの不安に寄り添う時間のバランスが少しずつわかってきたような気がします。コミュニケーションのとり方が上手になったと信じたいところですが、若い頃に比べて太ったために貫禄がついたせいなのも否定せずにしておきます。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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