そんななか、痛みをこらえて再び打席に立ったブラゼルだったが、次の4球目、内角スライダーもファウルとなり、今度は左膝をゴツーンと直撃。相次いで両膝をやられたら、たまらない。再び崩れ落ちたブラゼルは、しばらくうつ伏せになったまま動けなかった。

 そして、2度あることは3度あった。小野は5球目も内角スライダーを投じ、またしてもファウル。打球はワンバウンドしたあと、右足首付近に当たった。3球連続の自打球禍に、思わずブラゼルは苦笑をもらし、スタンドからも笑い声が起きた。

 だが、「ここでくじけたら、男がすたる」とばかりに気合を入れ直したブラゼルは、なんと、次の6球目、外角シュートを右中間席中段に運ぶ意地のホームラン。

「やったぜ!」とばかりに一塁に向かおうとしたが、最初の1歩を踏み出そうとした瞬間、激痛が走ったとみえ、踏ん張りが利かず、ヘナヘナと崩れ落ちてしまった……。

 それでも足をひきずりながら、ダイヤモンドを1周。「両足は痛かったけどね」。阪神ファンは、今でも彼を“愛すべき助っ人”として懐かしく思い出すはずだ。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら