提訴についての会見を開いた伊藤詩織さん(c)朝日新聞社
提訴についての会見を開いた伊藤詩織さん(c)朝日新聞社

 ジャーナリストの伊藤詩織さんが、SNSに投稿されたイラストが名誉棄損にあたるとして漫画家らを提訴したニュースは大きな注目を集めた。伊藤さんの背中を押したのはリアリティー番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラー木村花さんの存在。今では2人を擁護し、応援する声がネット上にあふれているが、当初は激しいバッシングを受けていた。ネット世論を動かすものはいったい何なのか。2人のケースを中心にメディアに詳しい識者とともに考えた。

【写真】記者席から訴えた相手をみつめる伊藤詩織さん

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「木村花さんの件を耳にして、本当にショックでした」

 伊藤さんは損害賠償を求めて提訴した6月8日、記者会見で、5月に急死した木村さんについてこう言及していた。憶測に基づく誹謗中傷が、ネット上で拡散。不安と孤独に苦しんでいたことに自身の境遇を重ねていた。

 現在は、ネット上で「バッシングは許さない」といった声が多数を占めるようになったが、少し前までは憶測に基づくネガティブな意見、人格を否定するような書き込みが絶えなかった。また、それに異を唱える人も少数派のように見えた。

 ネット上での世論はどのようにして形成されてきたのか、まずはこれまでの経緯を振り返ろう。

 伊藤さんの存在が広く世間に知られるようになったのは、2017年5月の会見。伊藤さんは顔と名前を出して会見に臨み、元TBSの男性記者から性的暴行を受けたと明かした。伊藤さんは、2015年4月に港区内のホテルで性的暴行を受けたとし、同月に被害届を出した。しかし翌年、嫌疑不十分で不起訴処分となっていた。

 そこから、伊藤さんに対する誹謗中傷が集中することになる。伊藤さんによると、SNS上だけでなく、ダイレクトメッセージやメールで直接送られてきたものや、家族へ危害を加える旨の書き込みも多数あったという。

 同年9月、検察審査会が伊藤さんの審査申し立てについて「不起訴を覆すだけの理由がない」として不起訴相当の判断を下すと、ネット上での風当りはさらに強まる。同月、伊藤さんは元記者を相手に1100万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こしたものの、ヤフーのコメント欄では彼女をバッシングする意見が多くみられた。

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地上波テレビとネット世論の共犯関係