これらの計画は19年2月に厚生労働省に臨床研究の開始が承認された。

「細胞はつくり終えていて、今は品質チェックの最終段階。チェックが終わり次第、実際の移植が始まる見込みです」(同)

 リスクは少なからずある。他人由来の細胞を利用するため、半年ほど免疫抑制剤を使うことだ。健常時の脊髄には免疫系の細胞はなかなか入ってこない。脊髄損傷の直後には入ってくるが、他臓器より免疫抑制剤の使用量や使用期間は軽度で済むと考えられている。

 またリスクとして腫瘍化の可能性も否定できないが、ないであろうことがさまざまな方法で確認されている。岡野医師は、万一腫瘍化すれば手術で摘出するか、免疫抑制剤の使用をやめて免疫細胞にアタックさせるか、放射線治療をするかの3パターンを考えている。

「今後は脊髄損傷の慢性期や脳梗塞などにも応用したいです。これまで慢性期の患者さんには有効な治療法がありませんでしたが、我々の実験では成功し、論文で発表しています。準備には時間がかかりますが、2年後くらいにできたらいいなと。当院だけではなく、日本全国や世界中でできる治療法にしていきたいです」(同)

(文・小久保よしの)

≪取材協力≫
慶応義塾大学 医学部生理学教室 岡野栄之医師

※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より