俺が競馬好きだから馬も好きなんじゃないかって? そうだなあ、競馬はもともと当たったときの快感と思わぬ身銭が入ってくるのが嬉しくてやっていたからな。ただやっているうちに、厩務員さんが競走馬をピカピカに磨いているのを見て、そんな気持ちで競馬を見ていた自分が恥ずかしいと思うようになったね。それから、血統とか、そっちの方にも興味が変わっていったんだ。血統を見て、走っている馬が自分が若い時に金が無くて必死に買っていた馬の子だと分かると感慨があるねえ。

 競馬新聞も面白くてね。読んでいると「馬主、北島三郎」って書いてあったりして「演歌歌手の北島さんも馬を持ってるんだ」と知ったり、前川清さんも馬を持っているんだなって知るわけだ。北島さんの馬はずっと勝てなくて、俺も「なんでまだ馬を持ち続けているんだろう」って思っていてさ、さらに前川さんの馬がG1を取ったときには「北島さんは悔しいだろうな」なんて勝手に同情したりしてね。それが、キタサンブラックで何十億も稼いで、一気に取り返したし、苦労が報われてよかったよ。

 実は俺も一口馬主になったことがあるんだ。その馬は未勝利戦に一度勝っただけで、めっきり勝てなくなってしまって。俺は一口馬主を続けたかったんだが、家族がダメって言うもんでそれ以来やっていないよ。北島さんはずっと続けて成功を手にした一方で、俺は金が続かなかった……。

 馬にまつわる思い出もあって、今でも覚えてるのが俺が子どもの頃の親父の姿だ。当時はまだスバル360も走っていない時代だったけど、親父は農耕馬に乗って、バス停の停車場まで迎えに来てくれたりして、その姿をカッコいいなと思ったね。うちは福井の田舎で、耕運機がまだ高くてなかなか買えない時代だから、馬も大切な労働力だったんだね。俺が5歳くらいまでは各農家の納屋には馬がいたもんだ。だから親父も馬を持っていたんだけど、乗っているのは親父くらいだったよ。そんな光景を覚えているからか、俺も一度は馬に乗ってみたいね。馬は乗る人を見るし、乗ったときに馬がどういう人間か感じるらしい。天龍源一郎を乗せたら馬がどうなるか、やってみたいね。舐められるかもしれないな(笑)。

 まあ、俺のペットや動物にまつわる話はこんなところだ。そういえば、ほかのプロレスラーが動物好きでなにかを飼っていたなんて話は俺の周りでは耳に入ってこなかったね。馬場さんやジャンボが犬やを飼ったって話は聞いたことがない。全日本のプロレスラーは冷たい奴が多いんだろうね。あ、これはちゃんと書いといてよ!(笑)。

(構成・高橋ダイスケ)

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天龍源一郎

天龍源一郎

天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。

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