プロレスの巡業で行った先で今でも行きたいと思うのが、長崎県西海市。2003年に長州の団体の巡業に行ったときに泊まったホテルが印象に残っている。目の前が水量の多い川で、深い渓谷になっててね、その景色がよかったんだ。先日も女房に「ここのホテルがよかったから二人でまた行ってみよう」って言っていたところだよ。

 もうひとつ、プロレスの試合で行った先で印象的だったのは15年10月、引退ロードの地方最終戦となった秋田県の大館市民体育館だ。そこはすごく古い体育館で、割れた窓ガラスはガムテープで止めてあるだけ、トイレはお客さんと共用、こぢんまりした控室は床がミシミシ鳴るし、ロッカーは古い木製、秋田の10月はもう寒くて、カチカチ鳴るストーブでちんまり温まるという……。

 そんな環境だけど、俺は「やっぱりこれこそ地方巡業だな。昔のレスラーがやっていた地方巡業の体だよ!」ってすごく感激したんだ! 引退試合の直前の試合で、レスラーの原点に返って来たような気がしたよ。そんな気持ちになったからかな、その日は試合会場の物販でサイン会をしたんだよなぁ。その大館市民体育館はもう解体してしまったそうだけど、思い出に残っているね。そうだ、今後は大館市に行って、市議会議員に立候補してみようかな。猪木さんみたいに「覚えてますかー! あのときサインした天龍ですよー!」って(笑)。

(構成・高橋ダイスケ)

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天龍源一郎

天龍源一郎

天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。

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