ヘディングとの直接の因果関係ははっきり証明されていませんが、イングランド・サッカー協会(FA)はそれを受けて、ユース年代の練習でヘディングを制限するガイドラインを発表しました。

 海外では子どものヘディング練習禁止の動きが広がっています。アメリカ合衆国サッカー連盟は、すでに2015年から子どもの脳しんとうリスクを減らすためにヘディングを制限し、10歳以下は禁止、11~13歳は練習中のヘディングの回数を制限しています。

 しかし、総合的に見ればサッカーをすることで得られる健康上のメリットは大きいはずです。さきほどの研究でも、元プロサッカー選手では認知症の罹患率が高い一方で、他の心疾患やがんなどを原因とする死亡率は低いことが示されました。今後はリスク要因について科学的検証を進めていく必要があるでしょう。

 また、練習の制限、防具の装着、安全なフォームなどについても、多くの検討課題があるといえるでしょう。子どもから大人まで、スポーツをするすべての人たちのいま、そして未来の健康を守るために、リスクを減らす努力が求められています。

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松本秀男

松本秀男

松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長。

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