野村克也氏も生前語っていたが、阿部は『捕手』より『打者』としての存在感が強かった。そういった経緯を踏まえると、監督としても似たスタイルになるのではという。

「感情を裏表なく出し、周囲を明るくするのが最大の長所」と語るのは、前出の巨人担当記者。

「打てなかったら悔しがり、負けたら悔しがる。感情をストレートに出すから何を考えているのかわかりやすい。12年の日本シリーズでも、試合中に澤村拓一の頭をポカリと叩いたのは有名。多少の計算もあったのだろうが、あれは感情のままの行動だった。ただ冷静になった後はしっかり澤村のフォローもしていた。素直で周囲への気配りができるから、誰もがついて行きたくなる人」

 選手としての実績も十二分だが、それ以上に人間として魅力が監督としては向いているのではという声も多い。

「自分の失敗を素直に謝れる。女性問題もあったが、それもネタにして笑いに変えていましたから」

 巨人担当記者は12年のグラビアタレントとの1件を振り返る。

「女性と密会するのに宅配業者を装ってダンボールを持っているところを撮られた。表沙汰になってからは他球団選手からも、公の場でかなりいじられていた。それでも本人は笑顔を絶やさない。器の大きさというか、周囲を明るくするものを持っている。監督としてチームが勝てなくなっても、雰囲気を大事にしそうですね」

 当時、中日の谷繁元信などは巨人戦の試合前、周囲へ聞こえるようにダンボールネタで阿部に話しかけた。阿部もその話に乗っかって周囲は爆笑の渦。誰もが触れて良いのか迷っていた中で、阿部本人が空気を読んだ形だった。

 現役引退直後から2軍監督として精力的に動き回っている。グラウンド上ではノックで選手を鍛え上げ、外では2軍施設の改善などを自ら提案、早急に形とした。新型コロナウイルスの影響で2軍公式戦は、1軍と同じ今月19日の開幕が発表されたばかり。まだ就任して間もないが、『慎之助らしい監督像』がおぼろげながらも見え隠れしている。

「早大戦後の罰走も阿部監督らしい。少し熱くなったんじゃないでしょうか。しかし選手とはしっかりコミニュケーションは取っている。若い選手も現役時代の功績はわかっているから、波風も立たないはず」

 時間はかかるかもしれないが、次世代の巨人を引っ張る選手を作り上げて欲しい。そして阿部2軍監督本人が東京ドームで胴上げされる日を見たい。遠く感じるようだが、それこそが巨人復活の最短の近道になるはずだ。