(イラスト/渡辺裕子)
(イラスト/渡辺裕子)

 炎症性物質が歯ぐきの血管から入り込んで血流を通じて各臓器にたどりつく――。最新の研究で、歯周病は糖尿病、心筋梗塞、認知症など、全身の健康とも大きくかかわっていることが分かってきていますが、そのキーワードは歯周病による「慢性炎症」と考えられています。日本歯周病学会・日本臨床歯周病学会による公式本『続・日本人はこうして歯を失っていく』では、歯周病が全身の健康に悪影響に及ぼすメカニズムを解説しています。一部を抜粋して届けします。

*  *  *

 歯周病の怖さは口の中にとどまらず、全身の病気の発症や悪化の原因の一つになっているということです。このため、歯科医師だけでなく、医師も歯周病に関心を寄せ、双方で「歯周病とからだ」に関する多くの研究をおこなっています。

 そのキーワードは、歯周病の大きな特徴の一つである「慢性炎症(持続的に炎症を抱えていること)」です。

 炎症とは、歯肉の発赤、出血、腫れや痛みのことです。歯周病になると歯周組織の炎症が起こり、特に歯肉は赤く腫れてきます。ひどくなると膿が出てくることもあります。

 この炎症が、全身に悪さを起こす元凶と考えられています。

■手のひら大の炎症が24時間、毎日続いている

「歯周病になるということは、手のひら大の炎症を治さないまま、生活しているということですよ」

 歯周病の専門医はよく患者さんにこう話します。

 手のひら大の炎症――。これは学術的な数値です。

 中等度の歯周病患者さんの持っている歯周ポケット周囲の歯肉の炎症の総面積を計算すると、「手のひらくらいの大きさ」(歯周ポケット5~6ミリの深さの範囲の炎症×28本=72平方センチ)と算出されるというのです。

 歯周病は慢性疾患ですから、治療しないままでいるということは、この手のひら大の炎症を毎日、放置しているということと同じなのです。

■炎症によって出てくる毒性の物質がからだをめぐる

 歯肉には毛細血管がはりめぐらされており、これが全身の血管につながっています。

次のページ
歯肉の炎症でできた「炎症性物質」が血流を通じ各臓器へ