■「わがまま」を言うほど「褒められる」会社

 これまでも、私たちの生活の多くは、いろんな人の「わがまま」がきっかけとなって、豊かになってきました。

 たとえば、洗濯機。一昔前、多くの女性は、洗濯物を洗濯板にこすりつけながら手で洗っていました。きっと「もっと楽にできればいいのに……」と思っていたはずです。でも、それを口にしようものなら、「わがまま」と言われたことでしょう。そんな女性の重労働を軽減しようと、戦後、日本の各メーカーが電気洗濯機を開発。わがままをないがしろにしないからこそ、現代のような豊かな生活が送れるようになったのです。

 青野は、タオルの生産量が日本一の愛媛県今治市出身なので、よく「今治タオル」の例を出します。

 青野が子どもの頃は、今治市のタオルの生産量は5万トンほどで、日本のタオル生産量の半分以上もつくっていました。ところが、工場が中国に移転して、今治のタオル産業は空洞化。今治市のタオルの生産量は1万トン、5分の1に落ち込みました。そこまで来て、地元業者はようやく「変わらなきゃ」と腹を決めました。

 そして、クリエイティブディレクターの佐藤可士和さんを招へいし、今治タオルというブランドをつくりました。そのうえで、「高品質なものしかつくらない、多品種少量生産でいこう」と、ベビーグッズやタオルマフラー、ぬいぐるみ、寝具など、いろいろな商品をつくっていったのです。一つひとつはそれほど大量に売れるわけではありません。けれども、今治タオルの品質やブランド価値が高まって、高単価で売れた結果、生産量は5分の1のままですが、売り上げ金額は飛躍的に伸びました。

 さて、今治タオルの成功の理由は佐藤可士和さんを起用したことでしょうか。確かにそれも大きな要因でしょうが、「わがままにある」というのが青野の解説です。「私はベビーグッズをつくりたい」と、現場でわがままを言う人が現れない限り、そこに「ニーズがある」ということにさえ気がつかなかったかもしれません。

 近年、世の中の経営者がこぞって「社内のダイバーシティ(多様性)が大事だ」と言うようになりました。日本で、大量生産・大量消費というビジネスモデルが通用しなくなったからこそ、多品種少量生産や高単価に結びつく、一人ひとりのアイデア、つまり、わがままが求められています。

 これまで以上に、私たち一人ひとりの「わがまま」を、会社や社会を変えるきっかけにしていかなくてはなりません。社員のわがままは、楽しく働くためのヒントであり、社会を変えるかもしれないアイデアです。わがままこそが、企業の競争力の源泉なのです。