北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
※写真はイメージです(c)Getty Images
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 作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、新型コロナウイルス対策の「日本モデルの成功」について。北原氏は、政治家や専門家たちの想像力の及ぶ範囲を疑問視します。

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 自粛生活が始まってから、私の暮らすマンションではリサイクルごみの日に出される空き缶が尋常ではない量になっている。先日は、空き缶箱から缶があふれ道路にちらばっていた。そのほとんどが缶チューハイかビールだ。居酒屋は閉じられているが、もしかしたら日本の酒量は変わっていないのではないかと、ふと思う。

「このままじゃアル中で死ぬかもしれない」 

 先日、美容院に行ったとき美容師がそう言っていた。お酒が好きな人で、仕事のある日は必ず居酒屋で一杯ひっかけて帰る生活をしていた。それがこの状況で仕事もなければ、居酒屋も開いていない。気がつけば、あっという間に朝から飲む生活になったという。

 朝起きてまず缶チューハイをコーヒー代わりに一杯。運動不足を解消するために、昼ごろになると少し遠いスーパーまで歩いて行き、翌日の缶チューハイを1ダース買う。帰ってきたらだらだらと飲み続け、夕方6時になったら焼酎と日本酒を飲む(本当のお酒を飲む時間)、と「規則正しい」生活を送っているのだと自嘲する。

 彼の収入は1月に比べ20%以下になった。家賃は重くのしかかるが、予約のキャンセルは続く。給付金は申請したが、入金がいつになるのか全く分からず支払いのあてにできない。

「飲むと少し不安が消えるんですよね」
 
 だからこのままじゃ、コロナの前にアル中で死ぬかもと言うのだ。まったくだよね……と私たちは笑いながら、いや笑いごとじゃないんだけどね、と少し泣きそうになる。
 
 政府は今「日本モデル」ということを言い始めている。むなしい言葉だ。そこに何か実体が伴うかのような錯覚を起こさせるが、今苦しんでいる人々からすれば、急激な人生の下り坂の最中であることは変わらない。誰が「日本モデル」と言いだしたのかは分からないのだが、4月1日に専門家会議が出した提言では、PCR検査を対策の柱にするのではなく、クラスターを早期に見つけ出していく「日本モデル」に世界の注目が集まっているとされている。

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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