無責任な理屈で息子を差し出した結果、やはり前髪を切られ過ぎた息子は、その後しばらく「前髪がな~、切り過ぎなんだよな~前髪」と不満を表明しておりました。しかし妻は諦める様子なく、この原稿を書いている5月22日現在、まだ、例の鈴木蘭々な目で僕の頭髪を見つめてきます。先日は「みんな~、ハサミとバリカン、買ったからね~」と、誰も頼んでいない買い物を告知しておりました。妻との攻防は、まだしばらく続きそうです。

 そんな巣ごもり期間でも、怪我の功名と申しましょうか、良きことがあります。それは、前言と矛盾するようですが、やはり、妻と息子と長く一緒にいられることです。もちろんそれは、良いことばかりではなく、妻との小さい口喧嘩や、学校が休み中の息子になんとか勉強をやらせようとして、ただ僕も子供の時そうだったように、親の「勉強しなさい」という音は、聞こえない構造に子供の耳はなっているらしく、親と子の小さい攻防があったりして、それなりに騒がしい日々を過ごしています。

 そして、公開延期になっている僕の2度目の監督作、映画「はるヲうるひと」(近日公開予定←ちゃっかり宣伝挿入)に続いて、3度目の監督作を目論む映画の脚本を、この巣ごもり期間に書いています。誰かに「書いてくれ」と頼まれたわけでもなく、ただ僕がどうしても映画にしたいと思って書き始めたおはなしで、入り口も出口もなぁんにも決まっていない状態での執筆ですが、こう言っちゃなんだが、すげえ作品になると思うぜ。脱稿したら、映画にすべく何人かにお読み頂くので、お心当たりのプロデューサー各位、前向きによろぴく。

 さて、宣伝どころか営業まで挿入してしまったわけだが、とにかく、この巣ごもり期間、今だからできること、今しかやれないことをすべく、日々を格闘しておるわけでございます。皆さまにおかれましては、どうか、僕の「勉強しなさい」という音が息子の耳に届くことと、僕の頭髪の無事を、お祈り頂ければと思います。(文/佐藤二朗)

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佐藤二朗

佐藤二朗

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

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