実は、芸能人やスポーツ選手に対しては兵役を「免除」する制度があるという。これは法律で定められた国際大会に出場(国家代表など)、国際コンクールに出場・入選するなどの実績がなければならない。

「この制度の名称は芸術体育要員といます。この制度は兵役免除と誤解されている面がありますが、スポーツ活動や芸術活動を軍隊における兵役に代替する制度なので正確には免除ではないのです。理由もなくスポーツ活動や芸術活動を中断すると、やはり通常の兵役に行く必要があります。また、一律に4週間の基礎軍事訓練を受けなければなりません。定められた奉仕活動などにも参加しなければなりません。その期間は2年10カ月です」

 しかも、現時点ではBTSはこの芸術体育要員になることは難しいという。

「韓流の芸能人は国際的なコンクールに出場するわけではありませんので、いくら人気があったとしても、芸術体育要員にはなれないのです」

 この点は韓国でも論議を呼んでおり、近いうちに法律の改正がなされるかどうか、注目されているそうだ。

「ただ、ある芸能人が兵役逃れのために外国の永住権を取得したことで、国民感情が悪化しており、芸能人だけに特例を与えることによって反発を呼ぶ可能性があります」

 「例外」がほとんどないといっていい制度だからこそ、国民は徹底した平等を求めるのだろう。

 KPOPではないが、日本でも異例の重版となった韓国の小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の背景にも、兵役があるという。

 この小説は、韓国社会でごく普通の女性が遭遇する性差別や生きづらさを描いたもので、日本ではフェミニズムの文学として紹介されることが多かった。本国韓国では、女性から多くの支持を得られると同時に、この本の内容に嫌悪感を抱く男性も少なくなかったそうだ。

 同書の解説によれば、兵役をめぐる不平等感がそうした男性の反応の根底にあるという。水野教授は解説する。

「要するに彼らは、男女平等を主張するならば女性も軍隊に行くべきだといいたいのです。一方で、韓国の女性が置かれてきた厳しい状況もまた現実です。私も小説に書かれているようなことは実際に見聞きしてきましたから」

 最後に今後、兵役がなくなる可能性について水野教授にたずねてみた。

「今後兵役は短くなることがあっても、なくならないと思います。兵役をなくすためには憲法の改正が必要ですし、そのためには南北関係の緊張が劇的に緩和されなければなりません。現在の朝鮮半島情勢をかんがみれば、兵役が近いうちになくなる可能性は低いと思います」

 カルチャーや国際情勢とも無縁ではない、兵役。隣国を深く知るきかっけになるかもしれない。

(AERA dot.編集部・鎌田倫子)