しかし、軽症の患者さんの中にも数は少ないものの、厳密な意味での根治ができず、プラークコントロール後に歯ぐきの一部にまだ炎症が残っていたり、浅いとはいえ、歯周ポケットが残っていたりするケースがあります。歯周病重症化予防治療は主にこうした患者さんに対する治療になるのです。

 この原稿を書いている4月の時点ではまだ、始まったばかりで、歯周病重症化予防治療が標準化されていくのはこれからになると考えられます。一方、その内容は「SPTの簡易版」ともいわれており、ここではSPTの内容を紹介することで、皆さんに治療内容をイメージしていただければと思います。

 SPTではまず、口腔衛生指導やスケーリング、ルートプレーニングをおこないます。ここまではいわゆるメインテナンスと同じです。

 ここからがSPTならではの専門的な治療になります。

 例えば特殊な器具で歯周ポケットの中を洗浄し、通常の清掃では取り除けないプラークを減らす治療があります。また、細菌検査をおこなうこともあります。

 近年、歯周病には急速に進むタイプもあり、そうした患者さんの歯周病菌を調べるとしばしば、P.g菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス)やA.a菌(アクチノバシラス・アクチノマイセテムコミタンス)という種類の細菌など、歯周病を悪化させやすいタイプの細菌が多く見つかります。

 こうした患者さんに対しては必要に応じて歯周ポケットに抗菌薬を投与する「抗菌療法」をおこないます。

 このほか、歯ぎしりなどで歯を食いしばっている部分の歯では力がかかることにより、歯周病が悪化しやすいので噛み合わせの調整や固定、喫煙者には禁煙の指導をおこなうこともあります。糖尿病など歯周病を悪化させる持病をお持ちの人に注意喚起をすることもSPTの一環です。

 歯周病重症化予防治療では、より早期の段階の歯周病患者さんに対し、こうした処置が可能になるわけですから、普及すれば重症化する人は確実に減るでしょう。歯周病により、歯を失う人も減ることが期待されます。

 ただし、注意したいのはこうした専門的な治療は歯周病をよく知る歯科医師でないと難しいということです。重症度や歯周病が進みやすいリスクを正確に調べるには歯周病の専門的な検査が必要です。また、治療においては歯科医師の腕だけではなく、歯科衛生士の技術も不可欠です。

 このようなことから、歯科医師選びは慎重に。「歯周病認定医」または「歯周病専門医」の資格を持つ歯科医師を目安にすることをおすすめします。

著者プロフィールを見る
若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

若林健史の記事一覧はこちら