甲状腺がん手術には、甲状腺のすべてを切除する「全摘術」と、がんができた側だけを切除する「葉切除術」がある(イラスト/寺平京子)
甲状腺がん手術には、甲状腺のすべてを切除する「全摘術」と、がんができた側だけを切除する「葉切除術」がある(イラスト/寺平京子)

 週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。病院ランキングだけでなく、治療法ごとの最新動向やセカンドオピニオンをとるべきケース、ランキングの読み方などを専門の医師に取材して掲載している。ここでは、「甲状腺がん手術」の解説を紹介する。

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 甲状腺はのどぼとけのすぐ下、気管の前方にあり、気管を取り囲むように位置している。甲状腺がんは組織の種類によっていくつかのタイプに分けることができるが、約90%は乳頭がんである。一般的に進行は遅い。

『甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018』では、乳頭がんを再発の危険度によって「超低リスク」「低リスク」「中リスク」、そして「高リスク」に分類した。

 そのうえで、「大きさが1センチ以下で転移のない」「超低リスク」では、手術を受けずに、「経過観察」を選ぶことも選択肢としている。

 東京女子医科大学病院の岡本高宏医師は、甲状腺がん手術の技術的な進歩として、合併症予防のための神経モニタリングの登場を挙げる。

 がんができた場所によっては、手術で声やのみ込みにかかわる神経の機能が損なわれる恐れがある。14年に甲状腺がんに対して保険適用となった神経モニタリングを使えば、神経の働きを確認しながら安全に手術を進められる。また、どのような手技で、神経にどのような影響が出るのかもわかり、術者は手術中に手技の修正が可能になる。

 一方、薬物治療の進歩も大きい。甲状腺がんが他の臓器に転移している場合には、全摘術をおこなった後に、甲状腺がん細胞のヨウ素を取り込む性質を利用した、放射性ヨウ素内用療法を実施するのが標準治療である。この治療でもがんを抑えられない場合、以前はそれ以外の治療法がなかった。

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分子標的薬が使えるようになったことは効果が期待できる