保存療法には薬物療法、神経ブロック、装具療法(コルセットや腰椎ベルトなど)、物理療法(牽引、低周波治療や温熱治療など)、運動療法などがある。どれが最善かはエビデンス(科学的根拠)がないため、医療機関や医師の裁量によっておこなう治療が決まる。

「ただ、原則として、痛みが強い急性期は、まず薬で鎮痛を図り、安静にして腰への負担を軽くします。その際、腰を安定させるために装具療法を併用することもあります」(同)

 ヘルニアの薬物療法では、近年、さまざまなタイプの薬が使われている。

 代表的なものはロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム水和物)やセレコックス(セレコキシブ)などで知られる非ステロイド系抗炎症薬で、ほかに神経障害性疼痛治療薬のリリカ(プレガバリン)やタリージェ(ミロガバリンベシル)、医療用麻薬であるオピオイド鎮痛薬のトラマール(トラマドール)やトラムセット(トラマドール・アセトアミノフェン配合剤)、抗うつ剤を配合したサインバルタ(デュロキセチン塩酸塩)がある。これらを痛みの種類や程度に応じて“一時的に”用いる。

「低周波治療や温熱治療、牽引は、痛みで緊張した筋肉をリラックスさせることが目的です。また、先に挙げた鎮痛薬だけで痛みが取れないときは、神経ブロックをおこないます」(同)

 保存療法で中嶋医師が重視するのは運動療法だ。ストレッチや筋トレなどをおこなうことで、背骨を支える背中やおなか周りの筋肉が鍛えられ、椎間板にかかる負担が軽減される。最近は、少しぐらいの痛みならむしろ運動療法をおこなったほうがいいといわれる。

「運動療法は基本的には医師や理学療法士の指導のもと、通院または自宅でおこないます。医師にお任せの治療と違い、患者の“自分も治療に関わる”という自主性が必要です。習慣にすることでヘルニアによる症状が改善できるだけでなく、再発も予防できることがわかっています」(同)

 なお、高齢者のヘルニアは若い人と異なり、先に手術が検討されることも。健康寿命を保つ上でも早期対応が必要だという。(本誌・山内リカ)

≪取材した医師≫
慶応義塾大学医学部 整形外科講師 岡田英次朗医師
日本医科大学千葉北総病院 整形外科部長 中嶋隆夫医師

週刊朝日  2020年5月8-15日号