大学トップが学生に語りかける姿は、なかなかいい。東北芸術工科大の中山ダイスケ学長は新入生にこう訴える。

「入学予定のみなさんは、もう『生徒』ではなく『学生』です。『学生』とは、授業がない=休み時間なのではなく、どんな状況であっても自らの意志で学び続ける人のことです。ただ始業を待つのではなく、自分で何かを始めてみてください」(大学ウェブサイト、4月1日)

 法政大の田中優子総長は、キャンパス入構禁止・オンライン授業期間中は週1回、学生向けにメッセージと読書案内を発信している。

「私が大学一年生の時に授業で知り、心をゆさぶられた本があります。石牟礼道子が書いた『苦海浄土』です。誰も予想していなかったことが起こった時に、原因のわからない病、いわれない差別など現実に起こっていることと、その当事者たちの心の中の言葉の両方を記録した名作です。現実の観察と内面への想像力、両方が必要であることがよくわかる作品です。第一部だけでもいいですが、第三部まで読むと、事態を社会的な主張にまで共につなげていく、人と人の連帯の力が見えてきます」(大学ウェブサイト、4月13日)

 これまで田中総長は、『コロナの時代の僕ら』(パオロ・ジョルダーノ)、『雨月物語』(上田秋成)、『エンジェルフライト』『エンド・オブ・ライフ』(以上、佐々涼子)、『新復興論』(小松理虔)、『カタストロフ・マニア』(島田雅彦)などを取り上げている。

 緊急事態においては、大学トップの発信力が大学のブランドを作り上げると言えよう。

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫