オリンピック予選レースとなるビーチバレーボールのワールドツアーは、年間で約70カ国から1000人を超える選手が参加している。各国で終息しなければ、なかなか幕を上げるのは難しいだろう。新たなレースのカタチが見えてこない状況であるが、それはどの競技も同じ。そんな状況下でも多くのアスリートたちは自らを鼓舞し、唯一外部と接触できるスマートフォンやパソコンやの画面を利用してファンを勇気づけようとメッセージを送っている。それは、スポーツによって生まれたエネルギーの輪が誰かの心の支えになることを知っているからだ。越川は2011年のことを思い出す。

「東日本大震災の時、知り合いの実家が岩手県大槌町にあって津波で流されました。少しでも元気になってもらいたかったので、数年に渡って保育園や学校を訪問して一緒にバレーをやりました。東京でVリーグの試合があるときは、岩手から子どもたちを招待しました。今でもその子たちとはSNSでつながっています。そのときは自分が動くことで少しでも励みになれば、と行動できたけれど、今回自分ができることはSNSを利用した寄付や購入くらい。外で何かをするというよりも、何もしない勇気が必要だと思っています」

 越川は収束が見え始めたら、困っている方の手助けに向けて動きたいと胸の内を明かした。一方、村上は今回の活動自粛を通じて初めての「気づき」があったという。

「自分が何をしたら皆さんに楽しんでもらったり元気になったりするのだろうか?と考えたら、実は何も思い浮かばなかったんですね。それで『ああ、私は今まで自分ががんばることを一番に考えてビーチバレーボールをやってきたんだな』と気づきました。それじゃダメだと思いました……。先日SNSでリレー方式のメッセージを出したら少し反応があってそれでも嬉しくて、小さいことでもいいんだと思いました。これからは自分にできることがその先につながればいいな、と思うことをやっていければと思います」

 普段と違うフィールドにいるアスリートたちに与えられた時間は、数々の気づきをもたらした。今はただ、そんなアスリートたちの力が放出されるときが待ち遠しい。(文・吉田亜衣)

●吉田亜衣/1976年生まれ。埼玉県出身。ビーチバレーボールスタイル編集長、ライター。バレーボール専門誌の編集 (1998年~2007年)を経て、2009年に日本で唯一のビーチバレーボール専門誌「ビーチバレーボールスタイル」を創刊。オリンピック、世界選手権を始め、ビーチバレーボールのトップシーンを取材し続け、国内ではジュニアから一般の現場まで足を運ぶ。また、公益財団法人日本バレーボール協会のオフィシャルサイト、プログラム、日本ビーチ文化振興協会発行の「はだし文化新聞」などの制作にもかかわっている。