若い選手や伸び盛りの選手、けがや故障からの復帰中の選手なら、「延期で練習できる期間が増えた」とポジティブに捉えることが可能でしょう。それに対して、年齢的な体力の限界、あるいはけが・故障のために東京大会を最後に引退も視野に入れていた選手にとっては、さらにあと1年の延期でどうやって心とからだの状態を維持していけばいいかはシビアな問題です。そのような状況では、整形外科のスポーツドクターによる治療・リハビリ・トレーニング指導のサポートのほか、精神科を専門とするスポーツドクターによるメンタルサポートが大きな力を発揮するでしょう。

 感染拡大防止のための日常生活での制約や、試合・練習・ミーティングなどの競技活動の中断によって、アスリートの体力や精神面に悪影響が及ぶ場合もありえます。そんなときは、信頼できる指導者、トレーナー、心理カウンセラーなどに、不安や問題を相談してほしいと思います。万が一、重度の不安や、気分がふさいだ状態が1週間以上続くなどの症状がある場合は、精神科医に相談してみるのもいいと思います。日本スポーツ精神医学会のホームページでは、アスリートの精神的問題を治療できる学会所属医師リストを公開しています。

 多くのトップアスリートは、どんなことがあってもくじけない、たくましい精神力の持ち主です。ネット上には、そんなアスリートたちが自身の率直な思いやコメントを寄せています。その前を向く姿が、苦難の中にある多くの人たちをどれだけ勇気づけていることでしょう。

 絶えず練習を積み、自己のベストを尽くし、最後まで戦う。いついかなる時でも、タイミングよく全力を発揮する。そんなアスリートたちが、今度の大会のメダルを手にするにちがいありません。

 世界中がいま先の見えない暗いトンネルの中にいるなかで、2021年に開催される東京2020オリンピック・パラリンピック大会が、希望の光になることを願っています。

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松本秀男

松本秀男

松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長。

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