従来、オリンピック・パラリンピックの医学的支援の中の重要課題の一つに、海外からの渡航客が国内に持ち込む感染症への対策がありました。このたびの新型コロナウイルスの世界的拡大を受けて、東京大会ではとくに感染症の流行に対する対策を万全にする必要があります。まずは現在の新型コロナウイルス流行の一刻も早い収束と、今後の治療薬の開発が待たれるところです。

 選手の立場から考えると、まず出場権の問題があるでしょう。来年も出場権の保有を認めるのか、選手の選考をやり直すのか、各大会が延期または中止されている現状ではまだ不透明です。すでに出場権を得た国や選手は、権利を保有する可能性が高いようです。また、男子サッカーのように23歳以下の年齢制限がある場合、1年ずらして24歳以下とするかどうかも検討が必要です。

 各チームや選手は、延期後の日程と、出場権獲得条件の変更により、準備の仕方が変わってきます。また、各競技組織は、すでに1年後に予定されているイベントや行事の日程変更を検討しており、選手が五輪に集中できる状況を作れるよう、各機関との調整がおこなわれています。

 そして、契約の問題も浮上します。プロ選手の場合、所属チームが1年後の五輪への参加を認めるかどうか、今夏までの契約となっている各国代表チームの指導者、コーチなどの契約延長を交渉する必要もあるでしょう。チームや競技団体のドクターについては、それぞれの団体の所属契約になるので、大会延期の影響は大きくはないでしょう。

 スポーツ医学の面からみて、最も影響が大きいのはアスリートの身体的、精神的なコンディション調整の問題です。これまで選手たちは、今夏の本番にベストコンディションにできるようピークを合わせて、練習や調整に全力を注いできました。それが間近になっての急遽延期となり、頭が真っ白になって目標を見失ってしまった選手が数多くいるはずです。ピークを再設定するためには、トップアスリートといえども相当なエネルギーと精神力が必要です。そこが、東京大会での勝者となるための鍵かもしれません。

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あと1年心とからだの状態を維持するのはシビアな問題