どんな番組でもそつなくこなせる千鳥(c)朝日新聞社
どんな番組でもそつなくこなせる千鳥(c)朝日新聞社

『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)は鳴り物入りで始まった期待の新番組だった。総合演出・エグゼクティブプロデューサーを務めるのは『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』などで知られる加地倫三氏。『アメトーーク!』の枠で特番として放送された『千鳥の大クセ写真館』が好評だったことから、これが最終的には番組名を変えてレギュラー化されることになった。

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 大阪から東京に出てきて以来、数々のバラエティ番組を渡り歩いて、その実力を知らしめてきた千鳥が、東京で念願の冠番組をスタートさせる。しかも、あの加地プロデューサーが手がけるのだから真っ向勝負のお笑い番組に違いない。お笑いファンの間では始まる前から期待が高まっていた。

 しかし、いざ蓋を開けてみると、それは信じられないほどユルユルの脱力系の深夜番組だった。初回放送の企画は大悟が発案した「100円だけゲームセンター」。100円だけ持ってゲームセンターに行き、数あるゲームの中から1つだけを選んでプレイする、というもの。千鳥の2人がゲームセンターの店内でいろいろなゲームを見て回り、どれで遊ぶか話しているだけだった。個々のゲームについての情報なども一切入らず、この上なくシンプルなロケVTRだった。

 しかし、これが番組側の狙いだった。一見ゆるく見える企画でこそ、千鳥の真価が発揮される。千鳥はもともとロケに定評のあるコンビだった。ロケに行って面白い芸人というのは、何でもない日常的な場面から笑いを生み出す能力に長けている。初回の企画でも、大悟がどのゲームをするか迷っているだけなのに、ずっと楽しく見ていられた。そう、これが千鳥なのだ。

 その後も、一貫してお笑い度数の高い企画ばかりが行われてきた。欲求不満のノブのためにエッチな形の大根を掘りに行く企画、凍ったパンティをブーメランのように投げて戻ってくるか試す企画など、「毎回神回」と断言していいほどの充実ぶりだ。

 ノブが米津玄師の『Lemon』を上手く歌おうとする企画では、最後にスタジオで練習の成果を披露したところ、大方の予想をはるかに下回る出来でグダグダになるという奇跡が起きた。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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大悟の新キャラは漫画化されるほどに