最後に紹介するのが、神戸女学院大名誉教授の内田樹氏である。学生に寄り添った支援を訴えている。

「国難的危機に遭遇しているわけだから、『体力のある大学』が『体力のない学生』を支援するのは当然のことだ。学生たちの中には、コロナ禍によって、家族を含めて経済的に窮迫しているものが少なくない。特別奨学金を出すとか、一律の授業料減免をはかるとかいう非常時の措置をとって『どうやって学生たちがキャンパスに戻ってこられるまでの生活を支援するか』が優先的な課題である。

 もし大学が例年と同じような財務状態を維持することをまず考えているとしたら、それは『正常性バイアス』がかかってものが見えなくなっているのである。『ふつうの市民には見えているものが見えなくなっている』というような馬脚を現してしまったあとに、どうやってアカデミアが知的威信や知的指南力を保持できると思っているのか。こういうときこそ大学は『例外的な先見性』と『例外的に高い倫理性』をもつ制度であることを社会に示して、以て範となるべきだ」

 前例がない事態である。いま、学生が授業への対価について不信感を抱いている。教養、専門知識や技術をしっかり学びたい学生に、大学が教育活動で応えられたとき、大学への信頼が生まれる。

 そのためには、「例外的」な措置を取らなければならないだろう。

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫