明智光秀を演じる長谷川博己の芝居もまだ「控え目」だ(C)朝日新聞社
明智光秀を演じる長谷川博己の芝居もまだ「控え目」だ(C)朝日新聞社

 NHK大河ドラマ「麒麟がくる」が始まって、3カ月が過ぎた。評判は上々で、視聴率もまずまずだ。が、SNSではこんな声も出ている。

【写真】「私は清純派じゃない!」と言い切るNHK朝ドラ女優

「主人公の影がうすい」
「主役は誰だっけ」

 ちなみに、主人公は明智光秀で、演じているのは長谷川博己。本能寺の変で有名な光秀だが、前半生は謎に包まれており、使えるエピソードがほとんどない。

 そのせいか、第14話「聖徳寺の会見」も斎藤道三(本木雅弘)と織田信長(染谷将太)を中心に描かれた。婿である信長が舅の道三を驚かせ、実力を認めさせる話だ。光秀の役回りは、事前に相手を盗み見しようとした道三に、どれが信長かを教えるというもの。また、第13話「帰蝶のはかりごと」は道三の娘で信長に嫁いだ帰蝶(川口春奈)がこのサプライズ会見の影の仕掛け人だった、という話である。

 とはいえ、これが「江~姫たちの戦国~」(2011年)のスタッフなら、史実などお構いなしに光秀を目立たせただろう。主役に上野樹里を起用したことから「のだめ大河」とも呼ばれた「江」は、主人公がどこでもドアでもあるかのように神出鬼没に活躍して、歴史上の事件に絡んでいくというファンタジックな作品だった。

「麒麟がくる」のスタッフも、光秀の前半生が謎なのでいくらでも自由に描けるはずだが、さほど荒唐無稽な展開にはしていない。歴史に対して謙虚なのだろう。

 もちろん、光秀が目立たないからといって、物語がつまらないわけではない。道三や信長、豊臣秀吉、徳川家康、松永久秀といった史実(といっても、司馬遼太郎の小説「国盗り物語」と同名大河ドラマあたりの影響も色濃いが)の上でもキャラの立った英雄たちの群像劇として飽きさせない仕上がりになっている。これで光秀も後半生になれば、使えるエピソードも増えてくるので、より濃密なドラマになっていくはずだ。

 ところが、である。ここで、ある疑問が浮かぶ。そもそも、光秀が主役ってどうなのか、はたして大河の主人公としてイケているのか、という疑問だ。

著者プロフィールを見る
宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

宝泉薫の記事一覧はこちら
次のページ
人生に「派手さ」がない明智光秀