「未病」という言葉は2千年以上前、漢の時代の中国で書かれた漢方の古典『黄帝内経素問(こうていだいけいそもん)』『同霊枢(れいすう)』や『金匱要略き(きんようりゃく)』にすでに記されています。これらの古典には「上工は未病を治す」(訳:優秀な医者は患者の体質を考慮しながら次に起こる病態を予測し、早めに処置することで病気の発生を未然に防ぐ)という一文が記され、漢方では古くから未病の治療に大きな比重が置かれていたことがわかります。

 また、漢方では、小児の「虚弱体質」や高齢者における「フレイル」なども未病としてとらえます。フレイルとは「加齢により心身が老い衰えた状態」のこと。フレイルは、体重減少や疲れやすさ、歩行速度や握力・身体活動量の低下などから始まり、少しずつ進んでいきます。こうした高齢者におけるフレイルは、生活の質を落とすだけでなく、さまざまな病気や転倒によるケガなども引き起こす危険を含んでいます。

 早めに対策をとることができれば、元の健常な状態に戻る可能性もあるため、健康寿命を延ばすためにも、このフレイルにも漢方によって早めに対処することが大切になるでしょう。
(文・石川美香子)

≪取材協力≫
花輪壽彦医師
北里大学東洋医学総合研究所名誉所長
浜松医科大学卒。北里研究所東洋医学総合研究所入所後、所長補佐を経て、第4代所長に就任。北里大学大学院医療系研究科臨床医科学群東洋医学教授などを経て、現職。

※週刊朝日ムック『未病から治す本格漢方2020』より