20年以上、お笑いを取材する中で、そういう空気感を幾度となく感じてきたが、今回は現金というこの上なくリアルな方法。松本人志という立場ある人物が、現状を踏まえて知恵を絞った結果がこれだとなると、本当に待ったなしであることを痛感させられる。

 無論、コロナ禍で社会全体が大きな痛手を受けている。いきなり何もかも奪われ、人生を狂わされる。そんな事が至る所で展開されてしまっているが、仕事や収入がなくなる以外に、芸人ならではのダメージもあるという。

お金が苦しいのももちろんですけど、大きいのは心のダメージです。何が起ころうが、全てを笑いにして前向きなエネルギーに変える。それが芸人という仕事なのに、コロナに対してはそれができない。その角度からも難しい。仕事の根本を否定されたようで、心が重たいという話を数えきれないほど聞いています」(関西を拠点に活動する放送作家)

 実際、僕もその声はたくさん聞いてきた。そして、言葉に置き換えるのがとても難しくもあるが、20年間近で取材してきた中で感じたことがない圧迫感を芸人から感じもしている。

 その中、一筋の光となったのがお笑いコンビ「品川庄司」の庄司智春がツイッターで始めた“ギャグつなぎ”。

 庄司から始まり、これまで東野幸治や藤井隆らがギャグを披露。ギャグを終えたら次に“バトン”を渡す人間を指名するリレー方式になっており、俳優・菅田将暉が参加したことで一気に注目もされた。

 ネット上には、ギャグつなぎを見て「みんなの心意気が素晴らしい」「久々に腹の底から笑った」などの声が多数出ているが、実は、この試みに一番喜びを感じているのは芸人たち本人だという。

「ギャグ動画なので、子どもたちのウケも良く、小さな子ども同士の話にも、ギャグつなぎがよく出てきたそうです。そこで、庄司もそうですが、とりわけ子どもを持つ芸人にとっては『この時期にこうやって励ませるなんて、お父さん、カッコいい』という流れができた。閉塞感の中『ギャグつなぎで聞けた我が子の言葉に心を救われた』という声は複数の芸人から聞ききました」(吉本興業関係者)

 それぞれの立場で、それぞれが苦しむものを与えるコロナ。その苦しみの中から、何かしら今後へのプラスが発明される。現時点でそこまで考えるのは早計なのだろうが、それくらいなければ、あまりにも、あまりにもすぎる。(中西正男)

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中西正男

中西正男

芸能記者。1974年、大阪府生まれ。立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当として、故桂米朝さんのインタビューなどお笑いを中心に取材にあたる。取材を通じて若手からベテランまで広く芸人との付き合いがある。2012年に同社を退社し、井上公造氏の事務所「KOZOクリエイターズ」に所属。「上沼・高田のクギズケ!」「す・またん!」(読売テレビ)、「キャッチ!」(中京テレビ)、「旬感LIVE とれたてっ!」(関西テレビ)、「松井愛のすこ~し愛して♡」(MBSラジオ)、「ウラのウラまで浦川です」(ABCラジオ)などに出演中。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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