そう思う半面、燃え尽き感に苛まれた。周囲の方々の力を借りながら、全力をかけてひとり走り抜けた介護生活の終焉は、自分の中ですぐには消化できず、気持ちの落ち込みからなかなか抜け出すことができなかった。

■なにをしても楽しくない……このまま枯れてしまうのか

 気持ちの落ち込みの原因は、両親を看取った燃え尽き感だけではなかったように思う。更年期を迎えてからは「わくわく」したり「楽しい」と思えたりすることが少なくなってきたことは、以前からうすうす自覚していた。

 私は雑誌や書籍を作るという自分の仕事が大好きだった。若いころは、入稿や校了の前に徹夜するのが当たり前……というかなりブラックな労働環境ではあったものの、取材で得た情報を誌面にまとめ上げる工程は、とても刺激的で楽しかった。この仕事をずっと続けたい!という気持ちは、変わることはないだろうと思っていた。

 ところが、父母をみとった燃え尽き感と、更年期による気持ちの落ち込みが重なったためなのか、あんなに好きだった仕事に熱が入らなくなってしまったのだ。

 仕事以外のこともしかり。大好きなアーティストのコンサートに行っても、今まであんなに楽しかったのに、一気に湧き上がる高揚感が味わえない。この心の変化には、自分自身が一番驚いた。「なにをやっても楽しいと思えないなんて……このまま感情が枯れてしまうのか」と、大きなショックを受けたのだ。

■和菓子の美しさにひかれ、50代後半で製菓学校に入学

 そんなときにふと見つけたのは、「和菓子作り体験」のワークショップだった。長年、趣味で茶道を続けていたこともあり、美しい上生菓子には親しみがあったし、日本中の名店をめぐって美しい和菓子を食すのは大好きだった。でも作り方は知らない……と軽い気持ちで参加したのだが、それが思いのほか楽しかった。

 ヘラなどの道具などを使いながら、手の中で作り出される、小さく美しいお菓子。「作る」ことがもともと好きだったこともあるが、作り上げるときの集中力、できあがったときの美しさ、食べたときの口福感に魅了され、夢中になってしまったのだ。失われたと感じていた高揚感が戻ってきた。

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