マンションの管理会社から連絡があり、マンションの共有スペースを消毒することになったと。これもおそらく、黒沢のニュースを知った同じマンションの人が不安になったのではないかなと思ってます。「正直、迷惑かけたかな」と妻も思っていたはずです。誰も悪くないんですよ。

 そんなある日、マンションの荷物を入れるボックスに、小さな花束とメッセージが。同じマンションの人がくれたもので、その方とは会えばあいさつはしますが、ご近所付き合いをしてる仲ではありません。なのにその人が花束と一緒に「あと少し!頑張って下さい。少しでもお部屋が明るくなりますように(ハート)」と書いてありました。おそらく、妻と僕らの不安を感じてのことだと思うのですが。妻はそれを見て泣きそうになっていました。

 黒沢がかかる前は、コロナにかかりたくない不安は、少し輪の外にあった気がします。だけど、黒沢が感染して、妻が濃厚接触者になってからは、不安が輪の中になり、不安の種類も増えました。日々の暮らしの中に嫌な緊張感も出てきました。だからこそ、この花とメッセージが染みたのです。

 妻が自宅待機の間、家では息子もなるべく近づかないようにしていたのですが、3日ほどたち我慢の限界。妻に抱きしめてもらいたいと泣き出しました。母と子供が抱きしめ合うこともできない。

 全国でコロナに感染された方、家族が濃厚接触者になった方、たくさんいると思いますが、家族の当たり前が当たり前でなくなってしまっていると思います。そういう方の近くにいる人は、ぜひ、そっと心の花束を渡してあげてください。

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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