トイレットペーパーやティッシュペーパーが売り切れ、空になったドラッグストアの棚=2020年2月28日午後、東京都内 (c)朝日新聞社
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『リアルな今がわかる 日本と世界の地理』砂崎良著/井田仁康監修 ※楽天ブックスでの購入はこちら
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 マスクから始まり、アルコール除菌スプレーにトイレットペーパー……コロナ騒動以降、品薄が続き、困っている人も多いだろう。混乱が起きると、なぜ市場はこのような状況に陥ってしまうのだろうか? 「地理学」の視点から、世界のさまざまな現象を解き明かす『リアルな今がわかる 日本と世界の地理(だからわかるシリーズ)』の著者・砂崎良さんに、ビジネスパーソンなら知っておきたい基礎知識を教えてもらった。

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 現代は大量生産・大量消費社会である。人々は都市に集住し、生産地から輸送されてくるモノを消費して生きている。このシステムを支えているのは「交通」である。19世紀後半から20世紀にかけて交通の技術革新が起き、自動車や高速道路、鉄道、巨大貨物船などにより大量輸送が可能になった。そして発生したのが、消費地と生産地とが離れる現象である。大消費地は地価が高いので、広大な農地・牧場などを要する生産地は、地価の安い、都市から離れた場所に位置するようになる。そしてこの生産地から都市へ向かって、物資が日々輸送され、都市住民を養っている。

■品薄を引き起こす要因――距離と心理

 この大量輸送システムは、同時に次のふたつの現象をも生み出してしまった。ひとつは輸送の時間・距離が長くなったことで、都市部で品薄状態が一度起きると、それを補充する物資が届くまでに一定の時間が必ずかかってしまうこと。また輸送トラブル――国境封鎖やシーレーンの途絶など――が起きると、生産能力がなく人口の多い都市部では、即座にモノが不足することである。

 もうひとつは、「上記のようなことが起きるかも!?」という不安から、消費者がパニックに陥り買いだめに走る、その行為が社会に大きなインパクトを与えるようになったことである。都市部の人口密度が高いことから、各自が購入量を増やすとその量は莫大となる。また地価の高い都市部では倉庫の面積が限られるため、補充できる量に限界があり品薄となる。そして空になった売り場が恐怖感を煽り、さらなる買いだめが起きるという悪循環が起きるのである。

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地理学はなぜ役に立つ?